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夜のプールサイドで……
――月に視られている。
背後から揺さぶられながら、ひな子はぼんやりとそんなことを思った。薄目を開けて空に目をやると、闇の中に青白い月が浮かんでいる。
「はぁ……っ、はあ……ん、ぁあ…………っん」
フェンスの向こうに広がる雑木林から聞こえる虫の声に、ふたり分の荒い呼吸音が混じり合う。八月も今日で終わりだというのに、夜は相変わらず蒸し暑かった。じっとりと噴き出した汗のせいで首筋には後れ毛が張り付いている。
「どこを見ている?」
男がひな子の耳元で咎めるように囁いた。
「よそ見とは余裕だな」
男はひな子の腰を掴んだ両手に力を入れると、いっそう激しく腰を動かした。
人気のないプールサイドに汗が飛び散る。
「や、ぁ…………っ」
ひな子は体勢を崩して寄りかかっていたフェンスに強くぶつかった。錆びたフェンスがガシャン、と音を立てる。ぶつかった拍子に尖った胸の先がフェンスの細い網目に擦れた。
「あっ……」
水着の上からでもはっきりとわかるくらいぷっくりと膨らんだ蕾から電流のような快感がひな子の身体を走り抜けた。もう一回……その快感を求めて、ひな子は無意識にフェンスの隙間へと胸の先を擦りつけていた。
「ん……っ」
鼻にかかった甘い声が思わず口をついた。
「感じてるのか? このフェンスに」
頭の上から呆れたような男の声が降ってきた。恥ずかしさのあまり、ひな子の耳が赤く染まる。
「ふっ……わかりやすいな」
男は鼻で嗤うと、ひな子の赤らんだ耳殻をぺろりと舐め上げた。
「ひゃっ……」
ひな子が思わず声を上げると、後ろから腕を強く引かれて、フェンスから引き離された。
「ぁ……」
刺激をなくした乳首が寂しい。
「大人しそうな顔して……とんだ淫乱だな」
生温かい舌が耳の穴に差しこまれる。ねちゃねちゃとした水音が脳髄へとダイレクトに響いてくる。
「いや……」
男はひな子の耳を舐りながら大きな手のひらを腰から脇腹、鳩尾へと這わせていく。やがて胸元へとたどり着くと、生乾きの水着を勢いよくずり下ろした。窮屈な競泳水着から解放された乳房が露わになる。
「あっ……」
剥き出しになったひな子の乳房が外気に晒される。夏の夜の生温かい風がまとわりつくように肌を撫でた。
背後から伸びてきた男の手が、ひな子の乳房をむぎゅうと鷲掴みにする。
「ん……っ」
男はその柔らかい感触を楽しむように、思うまま好きなように揉みしだいていく。ひな子の乳首はますます固くなった。
なのに――。
男はわざとそこには触れないようにしているみたいだった。
――いじわる。
ひな子は男のことを恨めしく思った。
「はやく……触って」――言いかけた言葉を呑み込んだ。
気安く強請れるような関係じゃない。
だって、この男は……。
「どうした? 何か言いたそうだな」
男は面白がっていた。
――本当に意地悪だ、この男……。
「物足りないんだろう?」
笑いを含んだ声で決めつけたようにそう言うと、ひな子の胸の先を……固く尖ったそれを思いっきり摘んだ。
「あ、あぁぁぁ……っ」
糸を引くような喘ぎ声がプールサイドに響いた。
男は執拗にそこを嬲った。指の腹で転がしたり、爪の先で引っ掻いたり……。
さんざん焦らされてから与えられた刺激に、ひな子の身体は想像以上に反応してしまう。
「もぅ……や、だぁ…………」
「嫌? ほんとに?」
鼻で笑いながら聞き返すと、男はひな子の股の間に差しこんだ自身の一物を深く穿った。
下半身を責めながら、長い指は尚もひな子の胸を弄んでいる。
「んんぅ……、あぁ…………っ」
快感は男の触れた場所からぞくぞくとひな子の身体を苛んだ。
――誰かに見られたらどうするの……?
そう思うのに、漏れ出る声が抑えられない。
「あぁ……ダメ、です…………もぅ」
「ダメ……じゃ、ないだろう? こんなに締め付けておいて……っ」
男の動きは止むどころか、ますます激しくなった。
誰もいないプールサイドの一角が、ふたりの身体から放たれる生々しい熱気で包まれる。
「あぁ……んっ……誰か、に……見られたら、」
ひな子が男の意識をそらすように呟いたけれど、男の荒い呼吸と……何より、ひな子自身が漏らす甲高い喘ぎ声のせいで、男の耳には届かなかった。
夜空に浮かぶ月が、縺れ合うふたりの姿態を、冷ややかに見下ろしていた。
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