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レイニー・デート
「お兄ちゃん……?」
カラカラに乾いた喉が、掠れた声を吐き出した。そういえば、もう随分飲み物を口にしていないような気がする。
私は、目の前に突如現れた兄の姿を見て目を見開いた。
薄暗いこの部屋には、外の明かりもほとんど差し込まなければ、電気も点けていない。カーテンも閉め切り、扉の外には『入らないで』と貼り紙も貼ってあったはずなのに、どうして兄は此処に居るのだろう。
「久しぶりだなぁ、未佳!元気にしてたか!?」
溌剌とした声が鼓膜に突き刺さる。薄闇に見えた白い歯は、これでもかというくらい輝いていた。
「……そんなの、見れば分かるじゃん」
「ふむ、それもそうだな!いやー、すまんすまん!」
兄は豪快に笑いながら猫毛の頭をガシガシと掻いた。
私が生気のない死んだ目をしていても、能天気な兄はお構いなしに笑顔を振りまく。私がこの部屋に籠る理由は兄にあるというのに、兄はそれを微塵も理解していないだろう。兄の笑顔が消えない理由が、私にはよく分からない。兄自身が、自分はもう『死んでいる』ということに気が付いていないからなのだろうか。はたまた、死んでいるからこその笑顔なのか。
「お兄ちゃん、何で来たの?」
「ん?もしや嫌だったのか!?」
「……そうじゃない、けど。悠斗お兄ちゃんって、化けて出るようなタイプじゃないのに」
膝を抱えたまま枯れた声で言えば、兄は複雑そうな顔をして目を泳がせた。どうやら、死んだという自覚はあるらしい。もしかすると、自分でも驚いているのかもしれない。兄は真っすぐで馬鹿で、未練など残しそうなタイプではなかったから。
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