商人レーネス・ロンサール

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商人レーネス・ロンサール

 『商人』と一言で括っても、取り扱う商品は多岐に渡る。  例えば武器や防具、例えば貴金属、例えば薬品……。時代によってモノの価値は変わり、商人たちが取り扱う商品も変わったり、増えたりしてきた。  今回はその中でも特殊な商品を取り扱うこととなる。  ここはメイセルの街にあるギルド。私はここで首都までの傭兵を雇うために受付で申請をしていた。 「首都までの護衛、人数は一人、戦士系の職業で腕利き、できれば女性を希望、予算がこちら……」  ギルドの受付嬢が申請書を読み上げている。 「ロンサールさん。お気持ちは分かりますが、この条件はかなり厳しいかと」  ある程度予想はしていたけど、その予想通りの返答が来た。  通常この街から首都ヴァンウォードまでは、歩きで三日の行程となる。しかし裏道があり、そのルートなら一日で首都まで到達できる。  なら当然、人々は近い道を使うものだが、その道は山を突っ切る山道でモンスターや盗賊の類がウヨウヨとしており、危険なため使う人は少ない。  魔界大戦から百年たった今も、国は国内の道を満足に整備できるだけの余力はなく、主要な街道と鉄道の整備と維持で精一杯となっている。メイセルの街は鉱山などの貴重な資源地があるわけではないので、国も資金を投入してまで近道の整備をしたりはしない。  しかし私は今回仕入れた商品を、出来るだけ早く首都まで運びたいので、近道を突破できるだけの実力がある傭兵を雇いたかった。それも、なるべくお得な額で。  それに昔私が所属していた商人隊ははぐれ騎士団に壊滅させられ、その際に暴行を受けそうになったトラウマから、少しだけ男性が苦手になり、傭兵を雇う際はなるべく女性でお願いしていた。 「やっぱり、この条件じゃ厳しいですか……」  落胆する。元々そこまで大きな街ではないので、ギルドで雇える傭兵もそんなに多くはなかった。  そんな肩を落とした私をみて、受付嬢が提案する。 「予算を見直していただければ、騎士の方を紹介できますが」  騎士か……。確かに実力は皆折り紙つきだけど、雇用費が高いんだよなぁ……。  戦士として頭一つ抜けた実力と装備を持つ騎士達。戦力として非常に頼りになるが、お値段もそれなり以上で、私の懐事情では厳しいものがあった。 「騎士の人は少し苦手で……。それに雇用費が」  今提示している予算も決して少なくはないので、何日か待てば受けてくれる傭兵も現れるだろうけど、如何せん急いでいるのだ。  私が悩んでいると、受付嬢の元へ事務官が書類を持ってきた。 「今よろしいですか? こちらの方が依頼の完了報告にいらっしゃいました。貴女の担当でしたよね」 「あら、ありがとう」  受付嬢が書類を受け取り目を通す。すると受付嬢のぱっと明るくなり、持ち場に戻ろうとしていた事務官を引き止めた。 「この子、まだギルドにいるでしょう? 恐らく食堂でお茶をしていると思うから連れてきてもらえる?」 「はい、かしこまりました」  そういって事務官は下がっていった。 「ロンサールさん。もしかしたら傭兵、見つかるかもしれませんよ?」 「えっ、本当ですか!」 「私もよく知っている人で、今別の受付で依頼完了の手続きをしたそうです。今なら手が空いている筈ですので、こちらで話をしてみますね。ロンサールさんは座ってお待ち下さい」  受付嬢に促され、私は受付から離れたソファーで待つことにした。  “子”と言っていたからには、若い女性だろうか。  期待と不安を抱きながら、ソファーで待つ私の名前はレーネス・ロンサール。  所属していた商人隊が解散して以来、一人で商人を続けている。
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