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格闘士ティアーネ・エルメルト
「ロンサールさん。お連れしました」
受付嬢が私が座っているソファーまで来たとき、隣に一人の少女を連れていた。
黒いセミロングの手入れの行き届いた綺麗な髪、宝石のように綺麗な蒼い瞳、ツヤとハリのある瑞々しくて白い肌。白いロングフレアスカートに黒いジャケットのコントラストが映える。
整った顔の作りも相まって、まるで人形のような印象を受ける美少女だ。
凛とした透き通った声で美少女は名乗る。
「ティアーネ・エルメルトです。よろしくお願いします」
一切臆することなく、堂々とした喋り。そこからは意志の強さと、どこか優しさを感じ取れた。
「レーネス・ロンサールです」
私も名乗り握手を交わす。小さくてすべすべで柔らかい手だ。
可愛い子なのは嬉しいけど、とても戦闘、護衛が出来るようには思えない。そもそも傭兵をしているというのもピンとこない。
私は受付嬢に確認する。
「失礼だとは思いますが、彼女に護衛が勤まるのですか? そもそも職は? 雰囲気的に魔術師の系統ですか?」
私が矢継ぎ早に質問を投げかけ、受付嬢は少し困ったように隣にいるティアーネ・エルメルトに問いかける。
「エルメルトさんは何でも出来るんですよ。職はどちらで登録されてるんでしたっけ?」
「格闘士で登録していますが、それ以外にもいくつか資格はあります」
格闘士か。打撃メインの格闘術で戦う前衛職だけど、武器よりも自身の鍛錬が戦闘力に直結する職だ。こんな可愛らしい少女で務まるのだろうか。
「はっきり言います。ロンサールさんはラッキーですよ。エルメルトさん、これでかなりお強いですから。お薦めです。」
自信満々に胸を張る受付嬢。
そこまで言うのなら、このティアーネという子にお願いしようかな。
「エルメルトさんでしたっけ? ではこちらでお願いします」
「はい、では手続きを致します。お二人ともこちらにいらして下さい」
この後はギルドでの手続き。書類にサインし依頼料をギルドに払う。ギルドはあらゆる街にあるので、依頼が完了したら雇われた方はギルド、今回の場合は首都にあるギルドから報酬を受け取るという流れだ。
ギルドを通した依頼である以上、依頼主と傭兵は直接金銭のやり取りをしてはならない。もしギルドにバレたら、最悪ギルドで仕事を依頼したり出来なくなる。商人も傭兵もギルドを使えないとなると、かなり仕事に制限が出る。ギルドはそれだけの力をもった巨大組織なのだ。
もちろんギルドにはそれなりの手数料を取られるが、利便性と交換なので必要経費だろう。
手続きを終え、ティアーネ・エルメルトと一緒にギルドから出る。彼女は手にガントレットとブーツにグリーブ付きの装甲を装着している。格闘士ということで、これが彼女の武装なのだろう。
「準備はそれでいいの?」
鎧等は装着せず、フレアスカートもそのままだった。荷物も背負ったリュックだけという軽装だ。
「はい。これで問題ありません」
そうは言っても長いスカートは動きにくそうだし、戦闘向きと呼べる格好ではない。
私の目線に気付いたのだろうか。私を見上げる蒼い瞳と目が合う。私よりも背が低い彼女を自然と見下ろす形になる。
「強化繊維で編まれた特注のスカートです。この格好でも問題なく依頼を遂行できますので、ご心配なく」
実際ギルドからの信頼も厚い。彼女の瞳や語り口からは慢心や嘘は感じとれない。それに困難な依頼を即決してくれた。彼女を信頼しよう。
「それじゃあよろしくね、ティアーネ・エルメルトさん」
「お好きなように呼んでいただいて構いませんよ」
「そう?」
気を使ってくれたようだ。私が呼び難そうにしているのを察したのだろうか。
「じゃあ、ティアーネちゃんって呼んでもいい?」
「ええ、構いませんよ。ロンサールさん」
「私もレーネスでいいよ」
「では、レーネスさん。と」
名前で呼び合うと、一気に二人の距離が縮まった気がした。
「よし、それでは出発!」
一つ気合をいれて歩き出す。その後ろをティアーネが続く。
女二人、一晩かけての首都までの道のり。無事怪我無くたどり着けますように。
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