一章 十話 彼女は人間なのだろうか?

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一章 十話 彼女は人間なのだろうか?

 今はオープンキャンパスが終わって、家まで帰るところだ。  当然、帰りは紗良と一緒に帰る。  そして私は紗良にあることを話していた。  「金髪の女の子?」  「そうそう、金髪と金色の瞳をした女の子。大学で見なかった?」  当然それはメイザスちゃんのことだ。  「私は見てない気がするなあー」  「…………そう」  正直言って、外国人で地方国公立のオープンキャンパスに来るのはおかしい気はする。本人はミマ高校のOBだとは言っていたけど、それも不可解だ。とてもじゃないけど、まだ昔の友達と言われたほうがしっくりくる。  「っというかライムはちゃんと講義とか受けたのー? その人とずっとどっかを歩き回っていたとかない?」  「いや、三十分ぐらいだよ。メイザスちゃんと話していたのは」  「ふーんそうなんだ」  …………なんか、嫉妬してない? 凄い怖い目で見られている気がする…………。  「まあーそりゃどっちでもいいや。それで……どうだった、オープンキャンパスは?」  「……収穫? はあったような気はするかな。つまらない講義はあったけど、それ以上に興味ある講義とか、いろいろ体験してこの大学に行ってみたいなって気持ちにはなったかな」  「そりゃー良かった」  ……この良かったは、恐らく三割程度は嘘の感想じゃなさそうで良かったという意味合いが含まれているんだろうなという戯言を口にはせず、素直に残り七割のオープンキャンパスに行かせて良かったという考えを尊重すべきだ。だから、会話の得意ではない私は何も言わない。別に親友だからといって、むしろ親友であるからこそ何も言わない。立場関係があるのなら無理にでも会話にしないと後々面倒なことになるけど、この状況なら別に見なくていいだろう……。  閑話休題。  「…………明日……というか今日か。今日も勉強は一緒にする?」  「勿論するよー。というか毎日しないとだめだよ」  紗良と私はほとんど一緒に毎日勉強している。でも月曜日と金曜日は一緒にしない。紗良には家庭の問題もろもろがあるので、そんなに毎日私に付き添ってはくれない。そのため、澤山紗良という異常性質を持った私の親友は月曜日と金曜日はほとんど勉強できない。だから、厚芝先生に怒られることから逃げられない。いや、それだけなら問題ないけど、紗良は嘘が吐けないのもあるから、勉強の記録表に嘘が書けない。だから怒られる。厚芝先生という人間(ゴミ)は果たして紗良の事情を理解したうえであんな高圧的な態度をとっているのだろうか?  もしそうだったら、人間じゃないし先生でもないし、もちろん担任とも認められない存在になる。  --そんなことを考えいるうちに、…………駅まで戻ってきちゃったか。  「紗良、この後はどうする? 私は自分の家に帰るけど、紗良は私ん家に直行で来るの? それとも一回帰る?」  「うーん、身支度してからそっち行くよ。ちょっと遅くなるかもしれないけど」  「分かった。じゃあ、またあとでね、紗良」  「うん、じゃあねー!」  *****  紗良がいない間、私はとあることについて考えていた。  その考えは、  結局、メイザス・ラギムという人は本当に存在しているのか?  それについて考えていた。  試しに、家に帰ってPCを開いてメイザス・ラギムという名前で調べたけど…………やっぱり本人の名前さえ出ない。  もちろん、ネットで検索にヒットしてないだけなんだけど、あの可愛くてしかも外国人(さらに日本に滞在している)だと仮定するなら、ネットで見つからないのは少し不可解…………。でもそんなことは考え過ぎなんだろうか?  黄金の瞳に、金髪の少女………………。そして、ミマ高校出身。  私は知っている。いくら何でも周りから疎まれる対象にあったとしても"ソレ"の情報について知らないほど、私と紗良は疎まれていない。  ソレ、とはつまるところ幽霊--それもミマ高校にしかいないとされている幽霊だ。  七不思議ほど、多くはいないけど、私たちの高校には二つの霊が存在する。  正直、迷信のようなものなら七つあるほうが怖いし有名にもなりやすいような気もするけど、二つしかないのはそれでまたリアルさはある。  もし……もしもこれらの幽霊に会いたいなら深夜に学校を訪れることが条件だとされている。  一つ目の幽霊。異端で異常でおぞましさがあり、出来事だけ消えて感情だけが残る幽霊。  これが一番有名だと思われる。これはミマ高校だけでなく、ある程度の人間でも知っている。ミマ高校に訪れて、校舎のどこかをうろつくと、彼女は現れる。赤目で、赤髪のロングヘアーの女らしい。彼女は喜々として危機な話をして、さらには人間では考えられない何かをされて、しかしそれは消去される。それが学校中で噂されている戯言のようで、しかし見に行った人はその幽霊を確認したこと自体の記憶が消去されるので、確認のしようがない幽霊。  この幽霊は本当に存在するかもしれない。何せ、記憶はなくても深夜にミマ高校に入る旨を述べた学生が、次の日にはあまりの恐怖で学校に来られなくなったとか。この事例が一つではなく複数あること。それがこの霊がいるかもしれないという根拠。  さらには、感情が可笑しくなる。友人がその学生の家まで行って、部屋に入ればその学生は友人を恐怖の対象に捉えたのか、急いで窓から飛び降りた。…………骨折で済んだらしいけど。  ともかく。  この幽霊については本当にいる可能性が高い。  二つ目の幽霊。笑って笑って笑いまくって、しかしながら、否、だからこそ恐怖の対象とされる幽霊。  この幽霊はとにかく笑うらしい。しかも、この幽霊はワープのようなものが使えるらしい…………。幽霊を題材としたものにワープなんて、馬鹿らしいけど本当にこの幽霊は使うらしい。まあ、それもまたある意味リアルな感じはするわけだけど。そしてこの幽霊のいる場所はミマ高校であればどこにでもいるらしい。  しかしこの幽霊に至っては、いるかどうかの根拠は取りにくい。というのも、一つ目に話題にした霊のせいで記憶が消去されて、二つ目の霊がいるかどうかが全く分からなくなるから。  …………とまあ、なんとなくミマ高校の幽霊の特徴を振り返った私だけど、どうにもこうにも可能性の話なので、実際に霊を見なければその存在はどうしても否定してしまう。  私が彼女--メイザス・ラギムが何者かという考えをしたのは二つ目の幽霊が起因している。  それは二つ目の幽霊の容姿がメイザス・ラギムと変わらない。その特徴は、金髪に黄金の瞳、ショートヘアー(髪型についてはかなり諸説あるらしい)…………ほとんど特徴が一致している。  あまりに似すぎている。あの人が本当にメイザス・ラギムという本名でネットで検索できたら、そこから探れたような気はするけど何も検索結果に出なかった。ここから考えられるのはやはり、彼女は幽霊--それもミマ高校で噂されている幽霊の可能性が高い。  そこまで考えたところで玄関チャイムが鳴る。どたどたと階段を下りながら玄関のドアを開ける。当然そこには紗良がいた。  その日も当然勉強三昧だった。  *彼女との邂逅はすぐそこだ*  *先生--厚芝先生という人間を恨むしかない*
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