一章 十二話 怖い

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一章 十二話 怖い

 ブラックホールのようなものに吸い込まれ、気が付くと私はある教室に連れていかれた。  「ここは…………社会科室?」  一クラスの教室よりも広いのが社会科室だ。社会関係の授業で使うこともあれば、追試のテストもここでやったりする。  「やあ、やっと会えたね。……いや、やっと対面ができると言い換えたほうが正しいかな? 貴方は私のことを知らないわけだし」  「私は付き添い人として一応いるけどー、もしアラムっちが迷惑だと思うなら私はどっかで暇してるよー」  「いやラギムはここにいてもいいよ。私は別にラギムが迷惑だとは今のところ思ってないし」  「分かったー! じゃあ隅っこで見てるねー!」  「さて、ようやく、ようやっと、念願の第一歩が私にとっては叶ったとしても貴方は何も思わないんでしょうね…………桜田ライム」  「…………」  「ダンマリ。というよりは情況的に鑑みてしまえば恐怖とか、そういう感情かな? さっきのヒトも恐怖は多少なりともあったし」  そうやって話すのは赤髪で真紅の瞳…………記憶を消す霊…………。  「まあ、始めは黙るのは仕方ないかな。許すよ。誰だっていきなり知らない人と談笑するなんて無理なんだろうし。とはいえ、あまりそう身構えてないで一緒に話しましょう? 私の対面するように座ってはくれない?」  彼女は今、椅子に座っておりその対面するように椅子がある。そこに座れということか…………?  とりあえず。座った。  「うーん、なんかパッとしないなあ。ラギム悪いけど、私とライムの前に机を」  「あいあいさー!」  「…………!?」  理解に苦しみそうな状況だった。  教室後ろにある机二つのみが、ラギムによって作られたブラックホールのような場所に入っていき、私と彼女のもとに移動された。  「これで多少は話し合いっぽくなったかな? どうかな、ライム?」  「…………うん」  「そうそう、そうだね。まずは相手がどういう人間なのか観察するために同情のようにそう頷くのが大切だ」  ………………なんなの……これ……。相手の狙いが解かんないし、何をするかもまったく分からない。  「貴方は意外と驚かないのかしら? というのが、最初の質問にしようかな。うんそうだね。それがいい。貴方は…………いえ対等に話すなら君と言ったほうがいいかな? 人間の上下関係は難しいわね。いい塩梅を探すのが大変ね。それで……どうかな? 君は私たちを見ても常人よりかは驚きを見せていないように感じていたけど…………まさか放心状態ってわけではなさそうだし…………とりあえずはその理由を聞いてみたい。何故そこまで驚きな表情を見せていないのかな?」  ……まともに関わったらマズイのは分かる相手……。けど…………話さないとそれはそれで間違いなく何かマズイことが起きる 。それなら……無難なところから……、  「……幽霊が……人間っぽかったから…………でしょうかね。透けているわけでもなさそうに見えるし……」  「ふーん、なるほどね。私たちは人間が思っているほど幽霊っぽくないかもね。確かに、常人なら深夜にしか見えなくて、壁もすり抜けることはできるけど、…………うん。納得はできるわ。あと、もう少しフレンドリーになっていいよ。君と私は対等よ。もしも恐怖で敬語を使っているとしたら私は恐怖を払拭するような行動を取らなければならないし、何よりも私は君にある質問があるだけだし」  「…………そうですか……」  「っと、そういえば。君の名前は分かっているのに私の名前が分からないのは不便よね。私はアラムという……幽霊……幽霊なんだよね、一応だけど。よろしく」  そう言って椅子から立ち上がり、私のほうまで来て……握手を求めてきた。  …………いや、幽霊が握手できるの…………?  「……? どうしたんだい? …………もしかして私と握手するのは好まない?」  「いや、……そうじゃないんだけど…………」  「それが、お世辞だとかそういう問題でなければしてほしいけどなあ…………。でも、君が嘘をついているようで嫌な気がするし」  嘘…………か。そう言えば、今紗良は何をやっているんだろうか? もっとも、私はこの談笑とやらが終わったら恐怖で埋め尽くされて学校に行けなくなるのかもしれない…………。だから紗良と会うことはほとんどなくなるし、受験勉強なんて絶対してないだろう…………。  そう思うと幽霊と握手できないなど言うこともどうでも良くなって、相手の言いなり通りに握手をしようと手を差し出して、そしてすり抜けて…………、  「えっ?」  握手ができていた。アラムの手がすり抜けることは無かった。  「……? どうして驚いて…………、もしかして幽霊と握手できないとそう思っていたの?」  「まあ……」  「なるほど、それが君の疑問ね。なるほどなるほど、だから私にも相談できずに困っていたのね。確かにそれなら握手するとき躊躇うわよね。先に言っとくけど、私たちは人の手には触れられるわよ。深夜じゃないとできなかったりいろいろな条件はあるけど、ね。でもある程度は人間と同じことができる。当然物に腰掛けることもできれば物を持つこともできるわ。ただ、強いて言うなら私たち幽霊は特別な能力を持っていることかな。ラギムならワープのような能力。私は記憶消去、念動力--サイコキネシスと言った能力を持っているわ」  「サイコキネシスもある…………?」  私は聴いたことのない情報に驚く。  「ああ、そういえばサイコキネシスの能力があることを流したことはないわね」  ?  「…………それってどういう意味?」  純粋に意味が分からなかった。なぜ幽霊のアラムがミマ高校の生徒間の噂のことを把握しているのか…………分からなかった。  「君は、噂は誰かから来たと思っているんだよね。でも現実的に目の前で起こっているよね。そして私たちの容姿までもがミマ高校の生徒は把握しているわ。それって…………少し不思議だと考えたことはあるんじゃない? この意味分かるかしら?」  「--!? もしかしてそれってアラム達が--」  「みなまで言わなくいいわよ。そう、その通りなんだ。君の考えている通り、私は記憶を消去する能力以外にも、記憶を書き込める--改ざんできると言ったほうがいいのかしら。そのようにすることで、私は学校中に噂を流すことができた。そして何人かの生徒たちはこのように考えてもいたよね--アラムという幽霊は存在していることを確認できたとして、ならなんでラギムという幽霊までも確認できるか? という、そんな疑問があったと思う。さすがにそれ以上の記憶の改竄をするのは骨が折れる作業だからね。私、骨あるように見えて幽霊だからないんだけどね」  …………ヤバい。…………こいつらはヤバすぎる存在だ。  もしもこれがミマ高校だけでなくて、地球すべてにまで範囲が広まればそれだけで、何もかもが終わる。国の代表だけをターゲットにして殺したり、最悪…………歴史そのものが改竄される可能性を孕んでいる…………。  「? ここは笑うところだと思うけど……滑っちゃったかな?」  「…………すいません」  「謝ることは無いわよ。笑う感性はヒトそれぞれのものだって聞くし、何ならラギムは笑わないと思うわ」  「いやー私は面白かったけどなー!」  「ありがとう……。それで? 君にとってみれば今の発言は笑えるような発言に足ると思う?」  「…………分かりません…………」  一番無難に答えるのなら、これだと思ってそう発言した。  「…………そう、そうなんだ。なんか意外。君がそう言うとは思ってなかったよ」  「……そうなの?」  「当然だ。私たちはずっと君を監視したけど--」  はっ?  「待って! それって私をずっと見てたってこと!?」  「ん? そうだよ。私たちは人間の法なんて関係ないし、別に問題ないわよ。っとそうだ。絶対に質問することがあったんだ」  「その前に質問だアラム」  「おっ、そっちから質問ね。いいよ、受け付けてあげるわ」  「紗良と私が話をどこまで聞いていた?」  もしも"嘘"のことを聞いていたなら、こいつらは殺すしか--、  「? 紗良ってだれのこと?」
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