一章 十三話 彼女たちは狂うしか能がない

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一章 十三話 彼女たちは狂うしか能がない

 紗良を…………知らない?  ……そんな……そんなことが考えられるだろうか?  それを知るために、  「アラム達は私をずっと関していた、そうよね?」  「うん、当然だよ」  当然…………って……。まあ、そのことは置いといて、  「なら、なんで紗良のこと知らないの?」  純粋な疑問。私を監視してた、それも監視し続けたということは、必然的に紗良のことを知っているはず。  それなのに知らない。  「そりゃあ知らないからだけど、…………もしかしてこの学校内に君と入ってきたヒト?」  「…………違うわ」  「違う……。じゃあ知らないわよ」  彼女たちがこの場合嘘をつく可能性はなさそうな気がする。それほど彼女は正直に話していたような気がするし、何より今まで紗良のことを話さなかったのはおかしい。  「もしかしたら私たちの特性だからかな? それについて話すと、監視対象を選んだらその人以外は関係なくなる…………まあつまるところ監視対象以外はアウトオブ眼中になっちゃうってこと。これで満足してもらえるかな?」  ……つまり私が誰かに何かされ続けても、興味の対象が私にしかいかないから紗良のことは何かが動いている、そんな認識にされるのか?  「まあ来年からは変わっちゃうかもね…………フフッ」  「?」  「ああ、ごめんね。私は独り言激しいから今のは気にしないで」  「……はい」  今、アラムは物騒なことを言ってたような気がするけど、そうか…………紗良は関係ないか。良かった。  そして、私はある疑問を抱えていたのでアラムに、  「また質問なんだけど、監視対象ってどうやって決めたの?」  「残念。これは君にも言えない禁則事項。幽霊の法に反するからね。ダメなんだ。…………君の質問はそれくらいかな」  「まあ……はい」  なんでか、急にせかされたような気はするけど、質問は確かにもうないのでこれぐらいにしておいた。  「じゃあ私が今回一番話したかったこと。つまるところ、勉強についてどう思っている?」  …………幽霊から勉強の話されたんだけど、もしかして幽霊は勉強したいとか…………そんなところかな? 幽霊なら生前の記憶を無くして勉強自体を忘れている、そんなこともあるだろうし。  そう思い、私は答える。  「勉強はまあ、始めはそれなりに楽しいと思いますよ」  「? ああ、違う違う。私が言いたいのはミマ高校の勉強……授業といっても変わりないかな。そう言うことについて聞いてみたいってこと」  なるほど…………、いやなるほどじゃないよ!?  なんで幽霊がそんなこと聞くのか分かんないよ!?  でも、これに対しての答えは持っていると言えば持っているので答える。  「担任がちょっといやなのかなとは思う…………かな」  「担任の授業がいけないと、つまりはそういうことかな?」  「どちらかというと授業以外にもですけど……」  「なるほどね。それなら虐めとかを起こす先生ってところ?」  「いや! それよりかはマシなんですけど、…………なんというか…………」  「まあ、分かったわ。君の担任がこのミマ高校の授業、もしくは勉強で邪魔な存在というわけなんだ」  …………否定はできない。だけど、  「でもそれよりかは私に問題があります。今まで勉強をおろそかにしてて」  「なるほどねー。それで、君はどこか行きたい大学はあるの?」  幽霊に大学を聞かれるとは思いもしなかったけど、まあ答えることにしよう。  「一応、国公立大学にしようかなって思ってます。でも学力が全然足りないんですよね……」  思わず苦笑してしまう私。悲しいかな、オープンキャンパスから一カ月たったのにあまり伸びてこない私の偏差値。  「いや、本来学力の問題は先生が何とかするものだよ。それをどうにもできないのは先生として、担任としてクソ喰らえだ」  何か…………こじつけがましいことを言い始めた彼女だったが、その瞳はあまりに恐く、おぞましかった。  そしてアラムは椅子から立ち上がり、  「そもそもいろいろオカシナところはあると思うんだよね、私は少なからずそう思っている。だってさ、可笑しいじゃん? 中学の時よりもあり得ないほどの勉強量をさせられて、させられてだよ!? おかしいでしょ? だってさ、勉強というものは本来であれば自分から学ぶもの。それを日本中がそうだからって自分から学ばせることのないような情況を、状況を引き起こすべきだって考え方をするヒトがほとんどいない。これってさあ、あり得ないことだと思うんだよね。ヒトは本来助け合う生き物にならないといけないのにさ、高校でやるのは優劣を決めること。ばかばかしいにもほどがある。日本のナンセンスさがあるっていうか、そもそも日本全部が何かに支配される。固定概念から抜け出さないしそれがいいと思っている野郎さえ現れる。あ゛ー可笑しすぎるしあり得ない!! だから平凡な生き方しかできない。それに引き換え、桜田ライム。君は凄いヒトだ。周りからの影響をほとんど受けずに、いや他人に流されることはあるが他人の意見には流されない。自分自身のしっかりとした意思を持っている。最高のコトだと思うよ。最高で最強で最恐なありさまだよね、私はそれを求めているの! 君のような人間が入ればこの世の中は平和な世界になると思うんだ。何事も優劣で解決せず、戦争で解決しないですべてを話し合いという議論だけで争いごとをなくして生きることが今の君には可能だ。でも、でもね。私はそれはどうでもいいって考えが働いちゃうんだよね。それを実現するなら、まずは不必要なヒトを一匹残らず処理しないといけないと思うんだ。常時怒っている人間や、永遠と何かにすがり続ける人間を私はあまり許さない。常時怒っている人間は特にあり得ないね! どうしてそんなに怒っているのか聞いたところで怒る。あー考えただけでも吐きそうだね。それもこれも感情があるからいけないと言えばいけないかとは思っちゃうところはあるけど、でも人間それを取っていけないのは幽霊としても重々承知している。だからまあ、何が言いたいかっていうと、ミマ高校で不必要な人間は殺したいと考えているんだよね? 私はヒトは殺せるけど、私がヒトを殺したとしても、殺しただけじゃん? つまらないんだよね。退屈なんだよ。ヒトをただゴミ箱にすてるように処理するのはつまらない。飽きるんだ。いや、そもそも私--アラムがヒトを殺したことは一度もないと思うけど、…………ないよね、確かだけど。ともかくね。私はそのクソ担任のようなヤツがいるならどうにか協力することもないってこと。というか私的にもう何かをやっているけど。それがコレなんだけど。私と君は既に協力関係になりたいとは思っているんだけど、幽霊の法が邪魔するんだよね。どうしても。どうにもこうにも。まあ、そんなわけで私は君とは協力関係になりたいと思っているんだよ。それが今できないのは本当に、とても残念なことだけど。協力関係になれば君はメリットしかないんだ。君のその性格は、私にとっても最も素敵なの。ほれぼれしちゃうよ。愛でたいほどに好きなんだ。だからと言って、うんも言わさずにひどいことをするつもりはないと思っている。私の欲はかなり強い方だけど、それでも礼儀のようなものは護る。それは幽霊にしても必要最低限のことなんだよ。とにかく。とにかくね。君とはミマ高校のために協力関係になりたい。今回はその余興、前振りと言ったところだ。私と君が話すことで、ヒトの監視ではなく人間の監視に到達したよ。とっても感謝している。ありがとう。そしてまた会おう。その時は記憶はないだろうけど、私は覚えているし、思い出させてあげるからね。  じゃあ次会うまでしばしの別れね。寂しいけど、再び君と談笑できることを楽しみに待っているよ」
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