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益々話しが通じませんが?
レゼット様の領地に着いて数日が経った。
甲斐甲斐しく侍女の方に世話をされ、かつ式に向けてドレスの採寸、宝石選び、などなど、こちらの戸惑いも否定も一切耳に入っていないのか、怒涛の攻勢で着々と進められている。
「奥様はとてもお小さい故、上品で細やかな刺繍のドレスが映えると思います。お靴の方は旦那様と釣り合いが取れるよう少々高さのあるものをご用意しましたがご安心を。ご負担にならぬよう歩きやすさを重視し、優美で繊細な作りを厳選に厳選を重ねて選びましたのでご満足頂けるかと」
「ええと、何度も言うようですが、私とレゼット様はそのような関係ではなくて」
「ええ、ええ、奥様の気持ちは分かっております。環境が変わって不安なのでしょう。ご結婚となれば何かと考えてしまうもの。私にも覚えがありますよ」
「違うのです。それ以前というか、あ、そうだ。身分から考えても恐れ多く、結婚など到底無理で」
「まあまあまああっ! 身分差を超えての恋愛とは露知らず! 何と情熱的なことでしょう。あのヘタレな旦那様にそんな一面があるとは! お見合いすること数十回、最初の顔合わせで会話らしい会話が成立せず、一人残らず逃げられていたのが嘘のようです」
「……」
「しまいには打診した段階で素気無く断られ、このままでは血筋を残すことなく枯れて死ぬしかないのではと使用人、いいえ! 領民全員が思っておりました!」
……また始まってしまった。
主人であるレゼット様をこき下ろ……ではなく、この後に続く、心配していた主人の将来が私によって救われたと、延々と崇める話しをされるのは、もう知っている。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
いや、一人だけいましたね。
「キュリオさん! キュリオさん!」
「……何でしょうか奥様」
「もう! 貴方までそんな事言わないで下さいよ!」
「ですが、坊ちゃんが妻って宣言したからね。確定路線になってます」
「なんで?! 結婚も養女の件も置いといてって言ってくれたじゃないですか!」
「あの時はそうでしたが、今は事情が変わってるんですよ。分かるでしょ? 皆、坊ちゃんの成し遂げた快挙に諸手を挙げて大喜びしています。真実なんて耳に入りませんよ」
「でも、私はっ、」
「嫌ですか? 坊ちゃんの嫁になるのは。まぁそうですよね。薬でバカになって初心者である君を何度も犯し、大事な部分に酷い裂傷を負わせましたから」
「っ、」
「野蛮で鬼畜。そんな男の妻になるなんて拒否して当然です。僕から言っておきましょうか? お前なんて死んでもごめんだ、と」
そう言われては黙るしかない。
自分の身に起こった出来事はレゼット様の意思によるものじゃなく、私のせいだから。罵倒するなど恨むなど、あり得なかった。
「ごめんね。意地悪な言い方した。でもさ、最近は僕にも坊ちゃんにも慣れたよね。震えてないし。その時点で君自身が判断してると思うんだけどなぁー」
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