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彼は害虫処理で不在中
毎日を忙しく ( 周囲によって ) 過ごす中、私はあることに気付いてしまった。
最初のうちはお茶やご飯を共にしていたレゼット様が、いつからか姿が見えなくなっている。
押し問答をしながら ( ほぼ一方通行 ) の式の準備、空いた時間はキュリオさんによるレゼット様講座。
夜は夜で侍女達から全身への入念なマッサージ ( という名の傷の治療及び、くびれを作る揉み解しと少ない贅肉をかき集めたバストアップ技術 ) を堪能させられ、心も身体も常に誰かに占領された気分だったから。
自分でも意識せずルーティンのようになっていたのだろう。キュリオさんの講座を発揮する意欲というか機会というか、を逸脱してレゼット様が空気のような存在になっていた。
「ねぇ、レゼット様はどうしたのでしょう?」
「王都に出向いておりますよ」
「帰ってきたばかりなのに?」
屋敷を取り仕切る執事の答えに首を傾げる。
雪深いこの地の収入は毛織物が中心だと聞いた。
寒さで蓄えられた豊かな動物の毛を短い夏季に刈って、冬季で衣類や小物に仕上げてレゼット様自らが売りに行く。
領民が王都に行かないのは、ひとえにレゼット様の婚活を応援している為だ。
散々なお見合い、打診も無理となれば、自分の力で探すしかない。あの日も商売がてら訪れた王都で夜会をこなし、結婚相手を探していたことはキュリオさんに教えて貰ったけれど。
『 あの通り朴念仁だからね。婚活なのに女性と接触はおろか話すこともしなかったんだ。こう言っては身も蓋もないんだけどさ、坊ちゃんにとったら君のミスは願ったり叶ったり、一種の光明、奇跡だったりする。薬がなきゃたぶん、一生童貞……ごほん、何でもない 』
余計な情報まで知ってしまった事は忘れよう。
「急用が出来たとおっしゃってましたよ」
「急用……」
「害虫駆除がどうとか。領地に虫が沸いたという苦情はないので意味は分かりませんが、結婚までに始末しなければならないと、何やらキュリオと話し込んでました。気になるならキュリオに聞いてみてはいかがです?」
屋敷の人達の勢いに流されて、当の本人と結婚についてキチンと話をしていなかった。
今更ながら、レゼット様がどういうつもりで妻発言したのか、私をどうしたいのか、真意というものを確認したい。
居ないなら仕方ないけど、いつ帰って来るかだけでも聞いておこう。
「さあ? なんせ3匹も居ついているからね。確実に残らず葬り去る為に綿密な裏どりが必要だから。ま、心配しなくても式までには必ず帰って来るよ」
いつの間にかキュリオさんも結婚を既定路線で話している。当日や前日では困るのですが……
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