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坊ちゃんの歩み 3 ( キュリオ談 )
本当に坊ちゃんの思考回路は手に負えない。
何とか自害を思い留めさせた。
被害者である彼女に殺されるべきだとの主張も退けた。
が、が、が。
目覚めた彼女が話す過去を聞いて、求婚という結論に達した時は、意識を失いかけてしまった。
無体された相手がした相手に うん ってなるか!!
言葉を捏ねくり回して流したものの、坊ちゃんの考えを改めさせるには至らなかったらしい。
領地に帰る道中、何かと彼女の世話を焼いている。
すまないと言いながら、触る、抱き上げる、寄り添う、過剰にベタベタベタベタ羨ま…見苦しい。
最初は怯えて震えていた彼女も次第に慣れたのか、断りを入れるが聞く耳を持たない坊ちゃんに諦めた様子である。
「ファナは小さくて可愛い」「ファナはいい匂いがする」「ファナは柔らかい」「ファナは…」
世話をした後は馬車を操る僕の横でぶつぶつ呟き、それがいつしか、
「ファナの笑顔が見たい」「ファナに好かれたい」
「ファナを大事に大切にしたい」
という欲望……ではなく、要望が漏れ出るようになっていた。
無理もない。
坊ちゃんにとったら初めての相手。
会話が成立しているとは言えないが、こんな長期に渡り一人の女性と過ごしたことがなかった。
つまり、免疫がない。
眠っていた男の性も起こされた。
加えて、未だ婚約者か妻にしか子種を与えてはいけないと思っている節がある。
媚薬にやられた頭で避妊が出来たとは思わない。
坊ちゃんのあの極論は、なるべくしてなっているのだろう。
彼女は気付いていない。
この先に待ち受ける自分の未来が既に確定していることを。
もちろん僕は、止めはしない。
人情として止めるフリくらいはするつもりだけど。
領民一同、使用人一同、念願成就。万々歳だ。
「キュリオ。ファナを領地に連れ帰ったら、俺は害虫駆除にまた王都に向かわねばならない。その間、彼女を頼んでもいいか」
「いいけど……ソレ、僕がやろうか? 彼女と離れたくないでしょう?」
「そうだが、これは夫たる俺の役目だ。妻の身体と心を痛めつけ、奪い、たかるだけでも万死に値するが、害虫共は俺をも侮辱している。許しておけない」
慰み者や売るなどと。俺はそんな人間じゃない!
ギリリと歯を食いしばる音がした。
怒りを抑えているんだろうけど願望はダダ漏れだ。
妻って、夫って……やっぱりな。
「気持ちは分かるけど、暫くは待ったら? せめて彼女が屋敷に慣れるまで」
「……分かった」
僕は色んな意味を込めて言ったんだ。
王都にとんぼ返りするのも、求婚の件も、互いを知るまで、もっと仲良くなるまで待てと。
なのに。
さすが坊ちゃんである。
屋敷に着いて早々「妻」発言をぶちかます。
ああもう、本当知らない……と言えたらいいけれど。彼女のために僕は頑張るよ。フォローと誘導を抜かりなくね!
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