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後日談 深刻な問題が発生しました
迷いはなくなった。
流されてるなんて、もう思っていない。
侍女以下の奴隷に身をやつしていた私を、元のあるべき姿に戻してくれたのはレゼット様。
大変な失態で巻き込んでしまったのに、彼は優しくも寛大な心で許し、そればかりか本気で妻にと望んでくれている。
諸所諸々、手続きは終えた。
後は式を待つばかり……なのに、ここにきて大変深刻な問題が起こってしまったのです。
王都から帰った直後は何ら変わりなかったのに、予定していた茶会、食事の席、などなど、二人で過ごす時間をレゼット様がことごとく拒否するようになりました。
理由は分かりません。
何か怒らせるような事でもしたのでしょうか。
見兼ねた侍女がレゼット様に聞いても押し黙ったまま顔を顰め、執事の進言にも無言を貫く。
頼みの綱だったキュリオさんも、もごもご、もじもじ、うじうじするレゼット様にお手上げだとサジを投げました。
皆にも言わない。話さない。
けれど確実に様子のおかしいレゼット様。
私は自分の言動行動を振り返り、何がダメだったのか何が気に障ったのか、悶々と悩むけど答えは出ない。
知らず知らず思考が後ろ向きになる。
ひょっとしたら求婚を後悔してるのかも、取りやめたいのかも、けれど式はもう間近で、皆も喜んでいるから言い出せないのかもしれない。
自然と顔が下を向く。俯く。
付き添う侍女のか細い声にハッとして、足元に固定していた視線を上げれば、前方、ずっと姿の見えなかったレゼット様と目が合った。
あ、と。
声をかける前に、クルリと背を向けられる。
次いで、脱兎の如く逃げ出され、呆然となった。
「え、と……大丈夫ですか、奥様……」
「……ます」
「え?」
「追いかけます!!」
気遣う侍女を振り切って走り出す。
私の頭は怒りでいっぱいだった。
あんなに人が断ってもベタベタして来たくせに。
知らない間に何もかも処理してくれたくせに。
妻だから当然だと、守ると、言ってたくせに!!
信じた途端にこれか! 受け入れた途端にこれなのか!
裏切られたような悲しみ、心を踏みにじられたような悔しさ、嘆き、巡る激情に身体が突き動かされる。
逃げ込んだ部屋の扉を開け放ち、怯えのような表情のレゼット様に構わず、ずんずん と大股で近付いていく。
「逃げるなんて酷いっ! 言いたい事があるなら言えばいいでしょ! 」
「……無理だ」
「そうですか。分かりました。貴方が私と話したくない、理由も言えない、顔も見たくないのならお望み通りこの屋敷から出て行って差し上げますよ!」
「ちがっ! ダメっ! 絶対にダメだ!」
掴まれた腕を振っても振っても離れない。
問い詰めても眉根を寄せて唸っている。
益々苛立ち本気で暴れれば、ぐい と力強い腕が腰を攫った。
「違う……違うんだ。私は、俺はファナがどうしようもなく可愛くて。見ると、触れると、色々不具合が出てしまう。……自制しようにも無理なんだ」
言いながら、密着した下半身をぐりぐり押し付けてくる。ほらな? と囁く声は、吐息を乗せて擦れ、ついでに私の意識も霞んでいった。
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