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後日談 新たな問題が発生しました
「私のアレが抜き差しならぬところまで来ている。ファナに出て行かれるぐらいなら、私のアレ事情を曝け出しても構わない」
「バカですか坊ちゃん。振り切れすぎでしょ」
堂々と立派に宣言したレゼット様は、ただいま私をしっかりと抱き込み、自分の寝台へ引きずり込もうとしています。
極論、ここに極まれり。
「反動も大概にしなよ。それでなくとも坊ちゃんは、初めてを無体に散らしたんじゃなかったっけ? 今度は優しくするとか、丁寧にするとか、せめて怖らがせないようにとか、考えてあげなきゃダメでしょうが」
「うっ……」
「分かったなら離しなさい」
差し出されたキュリオさんの手をジッと見つめながら苦悩するレゼット様。眉が上がったり下がったりとせわしない。口を何度か開き、結び、やがて喉奥から絞り出された言葉は。
「い、一緒に寝るだけだ。何もしない」
という、限りなくグレーに近い妥協案だった。
灯りを落とした広すぎる寝台で、離れない、引き剥がせない逞ましい腕が身体に絡み付く。
ぎゅうぎゅう、ぎゅうぎゅう、少し息苦しい。
動けば余計に絡まるので、ピシッと直立に寝ている私の頭頂部辺りで、ふんふんくんくん、鼻息がする。
「ファナのつむじの匂い…我慢我慢」「ファナの髪の毛の感触…我慢我慢!」「ファナの抱き心地っんぐ、我慢だ我慢っ!!」「ファナの柔い丸い……ふぐっ、はぐっ、ぬぬ! がが我慢んんんっ!」
合いの手のような呟きと、食いしばる口、太ももに擦り当てられる熱の塊りに、とてもじゃないが眠れない。
「あの……辛いなら、いいですよ?」
「っ!!」
「こ、怖いですけど。け、結婚したら、その……するわけだし」
恥ずかしい。
顔を凝視してくるのはやめて欲しい。
身を縮めてそっぽを向くも、火を噴きそうなほど全身が熱く火照っている。
「……しない」
「う、ん?」
「しないよ。過ちはあの一度きりで充分だ」
絡み付いていたのが嘘のようだ。
ゴロリと私の横に寝そべり、すまなかったと、何度も聞いた謝罪をする。
「正直に告白すれば、あの時のことをはっきりとは覚えていない。朦朧とした夢の中の出来事みたいで、現実味がないんだ。ただ……物凄く気持ち良かったことだけは、その、」
「……そういう薬でしたから」
「すまない。ファナには痛いだけの暴力だったのに。私ばかりがいい思いをした。今もだ。年だけ食って堪え性がないなど、妻に無理をさせるなど、最悪だ」
両手で顔を覆って項垂れる。
私はただ、あんなにも耐えていらっしゃる事が気の毒で。
「妻よ。よく聞いて欲しい。私は上手く会話が出来なくて思考も短絡極論だ。今みたいに困らせることもあるだろう。だけども、それに合わせる必要はないんだ。嫌なら嫌と、違うなら違うと、怒って欲しいし諫めて欲しい」
「え、あ……」
そっか……そっか。
私は流されてしまってたんだ。自覚がなくても、無理をしていたことを悟られたんだ。
慣れたと思ってたのに。
止めてくれてホッとしている私がいる。
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