後日談 跪いて愛語る、を習得した彼は

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後日談 跪いて愛語る、を習得した彼は

なんやかんやとありましたが。 私とレゼット様はこの度、領民使用人に温かく見守られながら無事に挙式し、目出度く夫婦となりました。 抜かりないことに、害虫駆除に訪れた王都で指輪も購入していたレゼット様は、害虫が食い荒らした男爵家の資産を鑑みて、それはそれは大きなダイヤをプレゼントしてくれました。 値段を聞くのが恐ろしい。色んな意味で。 傾きまくった男爵家は雇った優秀な人材のおかげで持ち直しつつある。夏季が来たら一度、二人で訪れる予定だ。 子供が出来たら跡を継いで貰うつもりだけど、実はまだ、そういう行為は致していない。 一緒の寝台で手を繋いで寄り添うだけ。 初めの一件、グレーゾーンの一件により、目下ムードと女心を勉強中とのことで、取得しない限り手出しはするなと禁欲生活を強いられている。( キュリオさんに ) 禁欲の割に合いの手呟きも、食いしばりもなくなった。不思議に思っていると「右手を使うことを覚えたんですよ」とキュリオさんがこっそり教えてくれる。右手の意味は分からないままだけど。 「そろそろ、いいんじゃないですかね」 「本当かっ!!」 「言っておくけどファナちゃん次第だよ」 「分かってる。無理強いは絶対しない。あとキュリオはファナの名を呼ぶな。汚れる」 「相変わらずの思考だな。暴走するなよ」 「右手を腱鞘炎にするつもりで抜いておこう。皆はとにかく準備を頼む。決行は今夜だ!」 私抜きで話された内容を知るのは、夜半も深まってのこと。侍女に案内されたのは、庭の一角に出来た雪のドーム。いつの間にこんなものを作ったのだろう。 冬の澄んだ高い空に瞬く星、透明感のある空気が肌を刺す。暗闇を彩るほのかな蝋燭は何本もの道となってドームを照らし、神秘的で幻想的な空間を生み出していた。 魅入られたように中に入れば、ランタンの灯りの下、柔らかく微笑む夫の姿。薔薇の花束を手にし、地面に敷き詰められた分厚い羽毛の絨毯に跪いている。 「愛しい我が妻よ。お気に召してくれたなら、どうかこの花束を受け取って下さい」 「これ……私の為に……?」 「妻以外誰の為にするというんだ。全部ファナにだけ。この場所も花も私の身も心も命も捧げよう。…あい…あ、い……愛して、る」 真っ赤になっているレゼット様に込み上げるものがある。薔薇なんて季節外れだろうに。 思えば彼は最初から。私を気遣ってくれていた。突飛だけども真っ直ぐだった。嘘もなかった。守ってくれた。式の時でもこんなに打ち震える気持ちにはならなかった。 朴訥ながらも初めてくれた想いの言葉……本当……反則だよ。 「私も、私も…あああ愛し、てます。すご、く嬉しいです。ありがとう」 その日、肌に触れた彼の手は、言葉以上に優しい愛に溢れていた。
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