後日談 2 彼はご乱心

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後日談 2 彼はご乱心

この地に来て、初めて迎えた本格的な冬の訪れは、想像していた以上の厳しさがありました。 外は猛吹雪、積雪は私の頭を超えるそうで、毎日、使用人総出で雪下ろしをしています。 日々の仕事に加算され、ただでさえ負担がかかっている所に、領地で発生した被害の報告が相次ぐので、屋敷は てんやわんや 目の回る忙しさになっていた。 ……私以外が、ですが。 お手伝いしようにも、部屋から出る度に連れ戻され、訴えても却下の嵐。非常に不服、役に立たない自分が恨めしい。 「坊ちゃんのご命令です。お聞き入れ下さい」 「足手まといなのは分かっています。でも私だけ何もせずにいるなんて」 「奥様……そのお気持ちは嬉しく思います。ですが、今はお疲れになるようなことはなさらずに、よく食べよく休み、万全の状態でいて欲しいのです」 執事の言葉に首を振る。納得出来ない。だって私はずっとそうしている。ゆっくりし過ぎて太ったぐらいだ。引き下がる気はありません。 「私は坊ちゃんのた…んん、奥様の為に言っております。例年通りならそろそろ領地も落ち着く頃合い。落ち着いたら奥様は寝る間もな……うほぉん、心身共に酷使……げふん、とにかくですね。気に病まずともご活躍の機会は嫌というほ……ごほん、訪れましょう」 失礼します、と。呼び止める隙もなく、さささっと素早く消えてしまいました。忙しいのでしょう。咳き込みもされてましたし、風邪を引いてなければいいのですが。 「ファナちゃん居るかっ?!」 「キュリオさん。お帰りなさい。領地の方はどうでし」 「大丈夫! 問題ない!というか助けてっ!」 執事と入れ替わるように飛び込んで来たと思ったら、私の背後に回り込む。 肩に雪が積もったままですが、何をそんなに慌てて? それに、話しの中身も理解が…… 「キュリオっ! どこだっ! まさか先にファナの部屋に……って、おいっ! 何をしてる! 離れないかっ!」 「わああ坊ちゃん! 違う! これはっ」 「言い訳など聞きたくない! ファナは俺の妻だ! 絶対に渡さんぞ!」 鬼の形相のレゼット様が剣を振りかざす。 突然の危機に訳も分からず、とにかくやめて下さい! と声を張り上げれば、鬼から一転、愕然とした表情で手から剣がコロッと落ちた。 助かった……安堵したのち、ギョッとなる。 レゼット様が号泣していたからだ。 「な、なぜ止める……キュリオが好きなのか?」 「……はい?」 「キュリオがファナを可愛いと言ったんだ。異性に対しそのような感情を持つのは好意の現れ。つまりキュリオは私からファナを奪う気で」 「ないないないって!!」 「黙れ! 俺は知っているんだぞ! 夫の居ない隙に間男とはいい度胸だ」 「何言ってんの?! 僕、今の今まで坊ちゃんと一緒に領地を回ってたでしょ?! どこにそんな隙がある?!」 「それは……知らん。だが、お前がくれた本に書いてあった。人妻に懸想して淫らな行為を昼も夜もなく延々繰り返し……つまり、お前は本を通して私へ宣戦布告したかったんだろうが!」 「はああ?! 違う違う! それはあんたの閨知識を豊富にしようという僕の親切心で、」 「じゃあ可愛いとは何だ?!」 なるほど……また例の極論発作が起きたようですね。
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