肯定しか許されませんでした

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肯定しか許されませんでした

やはり、私の人生は谷ばかり。 いや、今の状況を思えば、既に谷を突き抜け地中深く潜り込んだと言えるだろう。 目の前には腕を組む奥様と、丸い身体に堪え切れない嘲笑を浮かべる娘と、愛人宅より駆け付けた主人が仁王立ちで怒鳴り散らしている。 男を媚薬で誘うなど、畜生にも劣る所業だ。 好き者、淫乱、慎みのない破廉恥極まりない娘。 ……私のことである。 どこでどのような経緯でそうなったのか、察するのは容易かった。 傍らで呆然としている、私の失態で媚薬を飲んでしまった男が、被害者なのにいらぬ正義感を発揮して、騒ぎ立てたせいである。 そもそも元を辿れば、男のせいではないけれど。 嵐のような一夜、生娘には過ぎた一夜を過ごした私は、今朝、使用人に発見されるまで男と睦み合っていたらしい。 らしいと言うのも、私にその記憶はなく、使用人が屋敷全体に轟かした悲鳴で、潔く正気を取り戻した男が、破瓜を散らして気絶している私の惨状に愕然となり、自分を捕らえる為に警備隊を呼ぶよう指示を出したのだ。 罪状は見ての通り。強姦罪だ。 当然、屋敷は蜂の巣を突いた大騒ぎ。 そこでやっと目覚めた私は、半分意識が覚醒したまま、ぼんやりとしていた。 幸い呼ぶ前に奥様の耳に入ったから良かったものの、額を床に擦り付けて土下座する男が頑なに出頭すると言って聞かない。 公になって困るのは男でも私でもなくて。 奥様の罪が明るみに出ないよう、私が私の一存で男に媚薬を盛った、という筋書きが出来上がっていた。 「我が家の恥晒しめ! こんな迷惑をかけた貴様を屋敷に置けるほど私は寛大ではないぞ。即刻去るがいい。ああ、貴様の処罰は罠にかけたそこの男に任せるという手もあるな」 「ええ貴方、その方が宜しいでしょう。こんな小娘に嵌められたままじゃ、男として立つ瀬がありませんもの」 酷い茶番だ。 いや、彼らにとったら喜劇だろう。 目障りな男爵家の正当な血筋に罪をなすりつけ、最後に残されていた女の価値まで貶めたのだから。 何もかも完全に失った。奪われてしまった。 もう私には何もない。残っていない。空っぽだ。 「本当に私が判断してもいいだろうか」 「ええ、ええ、そりゃあもうお好きなように。煮るなり焼くなり叩き斬るなり、どうぞ遠慮は要りませんよ」 「では、この子を貰い受けたいのだが」 「ほほう、いい趣味ですな。慰み者としていたぶりたいとおっしゃる。でもこいつは棒切れのように肉付きの良くない身体ですので、さして満足出来ないと思いますが……かと言って、こちらに戻されても困ります。縁の切れた人間を受け入れることは出来ませんからね」 「あら、じゃあ私が一つ提案をしましょう。飽きたら売ればいいのですよ。この子の取り柄といったら若さだけですもの。嬲り終わったら、どこぞの物好きにでもやればいいのですわ。殺す手間だって省けます」 畜生にも劣るのはどっちだろう。 なんて、腹を立てるのもバカらしい。
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