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思ってたのと違うのですが
どれだけの間、眠りに落ちてたのか。
気付けば、屋敷から唯一身に付けていたシーツがなくなり、ゆったりとした丈の長いワンピースを着せられていた。
下着もちゃんと履いている。
……犯人はあの男か男の従者しかいないだろう。
だってまだ馬車の中だ。
他の人が居るのを目にしていない。
「起きたか」
「ひぅっ!」
全く気配がしなかった。
唐突にかけられた声に肩が跳ねる。
「すまない。驚かせたな。まだ寝てていいぞ、と言いたいところだが、朝から何も食べていないだろう? もう夕暮れだ。宿を取った。飯にしよう」
「ちょいちょい待ちなよ坊ちゃん。その前に説明してあげなきゃダメでしょうが。服とか下着…ううんと、状況を細かく色々と!」
馬車の小窓から遠慮がちに顔を覗かせる男二人。
私が目覚めるまで待っていたのだろうか。
気怠い、重怠い身体を起こせば、慌てたように男が扉を開けて中に入り込み、迷いなく私を抱き上げる。
「また触れてしまうが許してくれ。君がこうなってしまった原因は私だ。責任がある。一人で動けるようになるまで世話をさせて欲しい。その後は殺してくれて構わないから」
「殺っ……?」
「そうだ。君が元気になったらいつでもいいぞ。絶対に抵抗しない。なんなら短剣を渡しておこう。使い方は分かるか? どこが人の急所かそれも教えてやろう」
片手で軽々と私を抱き直すと、空いた手が懐を探り出す。え、待って。本当に待って欲しい。全く状況が掴めてないんですけども。殺……って、剣って何?!
「いい加減にして下さいよ坊ちゃん。彼女、びっくりしてるじゃないですか。いくら自分が悪いとはいえ、自分の意思を強要してどうするんですか。話は順序立ててするものですよ」
「だが、」
「だがもクソもないんです。坊ちゃんは致命的に言葉が足りません。あと配慮も足りてませんね。こんな狭い馬車で問答する前に、落ち着ける場所にお連れするのが紳士ってものでしょうが。あ、今更でしたか。既に野獣化した後ですもんね」
「キュリオっ!」
「はいはい。分かりました黙りますよ。でも宿に着いたら僕が彼女に経緯を聞きますからね。もちろん、無理のない範囲内と時間でです。坊ちゃんからの話では要領を得ないし、絶対におかしな方向にねじ曲がってるはずなんですから」
密かにキュリオさんとやらに同意する。
男は何を思ってソコに辿り着いたのか。
私が殺される方ではないの?
もしくは遠縁の進言通り、嬲るか売るかするだろうに。そうなる前提で有りもしない罪を背負わされたのだ。
眠る前は考えたくない、気力がない、と思っていたけれど。自分が殺人犯に仕立てられそうな危機的状況は、到底無視出来るものではなかった。
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