歓迎ムードに困惑

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歓迎ムードに困惑

王都の街並みから外れ、整備された森を抜け切った先は一面の銀世界。日の光りに反射してキラキラ、キラキラ、宝石のように目映く煌めき、辺りを照らしている。 なんて綺麗なんだろう。 初めて見る光景に息を呑む。 とても現実とは思えない。 そして、今の状況も……夢だと思いたい。 見渡す限りの雪は、目に痛いことを知った。 ずっと見てたら泣きたくないのに勝手に涙が出て来て、目を開けていられなくて、それを体調不良だと大騒ぎしたレゼット様が、私の意見も聞かずに抱き上げ、走り、あっという間に彼の住む屋敷に連れ込まれた。 派手に響いた扉を開く音。 大きさからして蹴破ったかもしれない。 あちこちから驚きの声が上がり、追いついたキュリオさんが止めようとしたけれど、遅かった。 響き渡ったのは、レゼット様の爆弾発言である。 「部屋を用意しろ!早く!妻の具合が悪い!」 ふかふかで寝心地の良さそうな寝台の上には私、取り囲むようにニコニコと満面の笑みで並び立つ人々、少し離れた場所では苦い顔付きをしているキュリオさん、そして……一番近く、私の手をぎゅっと両手で握り込み、眉を下げたレゼット様が。 「大事なくて良かった……私が言えたことでもないが、その、道中での行程が例の傷口に障ったかと」 頬を赤く染めないで欲しい。 ボカしているのものの、あらぬところの心配をされては、周囲の目が気になってしょうがない。 ただでさえ、医師の心得があるキュリオさんに全身をくまなく診察されて、恥ずかしくて気まずくて堪らないのに。 「苦節十数年、坊ちゃんがようやっとお嫁様を手にご帰還下さり、私は胸が震える喜びでいっぱいでございます。お嫁……奥様、この度は無骨で朴念仁で女性の機敏に疎く更には人としても少々ご面倒な性格の坊ちゃんを選んで頂きまして、使用人一同、感謝感激平伏す勢いで誠心誠意お仕えさせて頂く所存です。どうかどうか末長くこの屋敷、この地にてお過ごし下さいませ」 淀みないハッキリとした滑舌に、ポカンとなる。 深々と頭を下げた使用人を従えた、たぶん執事だと思うけど、白髪混じりの男性が涙を浮かべていた。 「あの、」 「ところで坊ちゃん。お式はご領地でよろしいですか?」 「今の所その予定だ」 「そうでございますか。では雪深くなる前にせねばなりませんね。諸所の手配を特急に済ませたいと思います」 「急で悪いな。頼む」 「あああのっ!」 「奥様、ご安心を。私めに全てお任せ下さいませ。後ほど、歓迎の晩餐の席にてお会いしましょう。皆の者、早速準備に取り掛かりなさい」 「「「「 はい! 」」」 「待っ、」 「無駄だよ。ここの連中は坊ちゃん譲り、あ、逆か……とにかく、人の話を全然聞かない思い込みの激しい集まりだから」 やれやれと、ため息をついたキュリオさん。 颯爽と居なくなった使用人一同と、未だ私の手をニギニギと握り込むレゼット様。 何度目になるだろう、キュリオさんに激しく同意するのは。
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