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帰るよ、と探しに来てくれた同じグループのメンバーに声をかけられるまで、私と美香子はずっと、そこでたたずんでいました。
周りをみると、すっかり暗くなってきていました。
「ごめんなさいね、つい、話が面白くなって。ね」
私に促し、美香子はそっと左手を背中にまわし、手のひらにのせていた蛞蝓をぽとり、ぽとりと地面に落としました。彼らには知らない、美香子の内なる部分を自分だけが知っているという優越感が、私の中にうまれました。
ほどなくして、私は美香子に結婚を申し込みました。
美香子は「私でよかったら、どうぞよろしくお願いします」と、承諾してくれました。
今朝も、キッチンでサラダを作ろうとレタスをちぎっていた美香子が、うふふと嬉しそうに笑っていました。
どうやら、あの薄く柔い黄緑色の葉に挟まれ、美香子が愛でる生き物がそっと隠れていたようです。
ふたりとも、子供は必要ないと思っています。この子も仲間にしましょうね、とキッチンにあるプラスチック製の昆虫飼育ケースに入れました。我が家のいたるところにある、それにはいつも青菜を食む蛞蝓がゆるやかに、生活をはぐくんでいます。
かれらが、私たち夫婦の子どもです。
君が悪いなんて、とんでもない。
美香子が嬉しそうに、子どもたちに話しかける様子に、私はいつも癒されるのです。
私は美香子のすべてを、心から愛しています。
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