<前編>

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<前編>

 ちょっと来てくれ、と端末で僕が呼び出されたのは、昼食休憩時である。昼ごはんを食べ、さあ残り時間は読書でもするか!とタブレットを取り出したタイミングだった。紙媒体の本を見なくなって久しい。データ化されていない大昔の書籍はまだ倉庫で眠っているが、今や読み物の大半は電子の海に陳列されているものとなっている。  ああ、異星騎士団の話の続き読みたかったのに。ちょっぴり残念に思いながら、僕は休憩室を後にした。廊下を普通に歩きながら思い出す。昔の未来小説なんかでは、未来はきっと車は空を走り、道路や廊下はすべてベルトコンベアみたいに歩かずに済むものになるだろうと書かれていた。現実はそんなことはなかったな、と苦笑する。西暦2XXX年になっても、人は普通に自分の足で廊下を歩く。――不必要なものに電力や技術を割く必要などないのだ。健康な身体を持っているのに、自分の足でちゃんと歩くことがなくなってしまえば、きっと人は怠惰なデブに成り果てるだけなのだから。 「遅くなりましたー……なんなんですか、休憩時間中に。あ、あと俺次の訓練、C棟まで先に行ってないといけないんスから。長話はやめてくださいよー?」  入室するやいなや、呼び出してきた上司に先に注文をつけておくことにする。宇宙開発訓練センター、その研究・観測室。モニターにはピカピカといくつもの星が瞬き、それを開発した数字が踊り狂っている。宇宙飛行士といえど、僕には分からない内容も多い。ましてや、この部屋の室長は偏屈で有名だ。調べなくてもいいことまで手を伸ばすタイプの人種である。 「おい、アルヴァ。なんだよその面倒事だと決め付けるような態度は。せっかくお前が喜ぶような話を持ってきてやったっていうのによ」  ボサボサの髭を生やした室長は、やや不機嫌そうに言う。実際の年齢がいくつなのか聞いたことはないが、髭を落とすと案外若い人なのかもしれなかった。酒焼けしているせいで声も低く割れているし、もっさりした髭のせいでオッサンにしか見えないけども。 「朗報だぜ。近々、お前らのチームに飛んで貰うことになるかもしれねえ」 「どういうことです?」 「小惑星が見つかったんだ。しかも、地球にかなり接近する可能性が高い。今まで観測されていなかった星で、一体どういうルートでこっちに来たのかさっぱりわかんねえんだけどな。空気があって、生命が住んでる可能性が高いんだ」 「!」  ほれ、と室長は手元を操作し、モニターに映像を映し出す。そこには、茶色い沼地に紫色の空が広がる、不思議な光景が広がっていた。 「先日無人探索機を飛ばしただろ。そいつが発見したんだ。火星を調べてそのままUターンさせるつもりだったんだが……探索機がコイツの存在を見つけてな。俺らのレーダーをどうやってくぐり抜けてきたのか知らんが、今まで発見されたどの小惑星よりもデカいのが特徴だ。具体的に言うと、直径が1キロ程度ある。ケレスよりもデケェ」  それはすごい。僕は驚いて、探査機が映し出す映像を見つめる。今の探査機は、リアルタイムで映像を自分達の元に飛ばすことができるのみならず、非常に映像の質がいい。カラーであることは勿論、かなりの距離であっても一秒とズレずに映像を飛ばすことのできる優れものである。科学技術様々だ。
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