(6) 雲のち雨

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「すぐ読んじゃいそう」 「寝不足で、授業中寝るなよ」 「寝そう……」 「寝るなっ!」  先輩のツッコミも嬉しい。  その後、いつものように図書室の鍵を戻してから帰途につく。ここ最近は、毎日先輩が家まで送ってくれている。  私は隣で歩く先輩をそっと見上げ、ふと思った。  藤沢先輩は、私をどう思っているんだろう?  私が先輩を想うのと、先輩が私を思うのは、きっと違う。……同じだったらいいのに。  そんなことを考えてしまい、私は慌てて頭を振った。先輩があまりに優しいから、私は贅沢になってしまっている。 「どうした?」 「何でもないです」 「何だよ、気になる」 「何でもないですってば」 「さっきはオレに言わせたくせに。平井も言えよ。じゃないと、嫌がらせするぞ」 「どんな?」  私の問いに、先輩は少し考え、言った。 「一晩中メッセージを送り続ける」 「私がさっき言ったのと一緒じゃないですか!」 「それが一番の嫌がらせだと思って」  先輩、わかってないですよ。私にとってそれは、嫌がらせじゃありません。
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