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「もしもし」
『平井っ!? 今どこだ?』
声が焦っている。先輩こそ、どこにいるんだろう?
「今から電車に乗ります。もう大丈夫です。うちは駅から近いですし」
『今、平井の家の最寄り駅にいる』
「……」
そのスピードに驚いた。たぶん、先輩は駅までずっと走って行き、来た電車に飛び乗ったのだろう。
「ごめんなさい」
『平井は悪くないだろ』
「でも、私のせいで先輩、菅沼さんを……」
『あれはあいつが悪い。それはあいつ自身もわかってる』
それでも、菅沼さんが先生に言いつけたりして、先輩に何らかの処分が出るようなことになったらと思うと、胸がぎゅっと締め付けられるように苦しくなる。
『平井のことだから、自分よりオレの心配をしてるんだろうけど……オレはあいつを殴ったことを後悔してない』
「……」
『むしろ、何もしない方が後悔する。明日、田中に言って、菅沼には代理を降りてもらうことにするから』
「でも……」
『絶対に降りてもらう。何とかする』
その声から、先輩の怒りが伝わってきた。
先輩が自分のことのように怒ってくれるのは嬉しい。でも、怖い。先輩はあの場面をはっきり見たのだろうか。
『待ってるから、早く来い』
先輩が優しい声で言ってくれる。それでも、私は今、藤沢先輩と顔を合わせたくなかった。
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