(6) 雲のち雨

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「もしもし」 『平井っ!? 今どこだ?』  声が焦っている。先輩こそ、どこにいるんだろう? 「今から電車に乗ります。もう大丈夫です。うちは駅から近いですし」 『今、平井の家の最寄り駅にいる』 「……」  そのスピードに驚いた。たぶん、先輩は駅までずっと走って行き、来た電車に飛び乗ったのだろう。 「ごめんなさい」 『平井は悪くないだろ』 「でも、私のせいで先輩、菅沼さんを……」 『あれはあいつが悪い。それはあいつ自身もわかってる』  それでも、菅沼さんが先生に言いつけたりして、先輩に何らかの処分が出るようなことになったらと思うと、胸がぎゅっと締め付けられるように苦しくなる。 『平井のことだから、自分よりオレの心配をしてるんだろうけど……オレはあいつを殴ったことを後悔してない』 「……」 『むしろ、何もしない方が後悔する。明日、田中に言って、菅沼には代理を降りてもらうことにするから』 「でも……」 『絶対に降りてもらう。何とかする』  その声から、先輩の怒りが伝わってきた。  先輩が自分のことのように怒ってくれるのは嬉しい。でも、怖い。先輩はあの場面をはっきり見たのだろうか。 『待ってるから、早く来い』  先輩が優しい声で言ってくれる。それでも、私は今、藤沢先輩と顔を合わせたくなかった。
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