(6) 雲のち雨

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「……先輩、もう電車に乗るので大丈夫です」 『家まで送るから』 「大丈夫です。……今は、一人になりたいから」  そう言うと、先輩はしばらく沈黙した後「わかった。気を付けて帰れよ」と言って電話を切った。  先輩に申し訳なくて、泣きたくなる。でも、やっぱり今は先輩の顔を見たくない。いや、見られない。  私は駅から電車に乗り、最寄り駅に到着する。辺りを見渡してみたけれど、先輩の姿はなかった。それにホッとする。  そして改札を出て、家まで帰ろうとした時──。  ザー……。  本格的に雨が降り出した。私はぼんやりと空を見上げ、溜息をつく。  近くのコンビニでビニール傘を買えばいいのだが、そんなことにも気付かず、私はフラフラと雨の中を歩き出した。 「藤沢先輩……」  会いたくないのに、すごく会いたい。  相反する二つの気持ちで、キリキリと胸が痛む。  人を好きになること、誰かを想うこと、それは楽しいことばかりじゃない。  私はまた、力いっぱい手で唇をこする。いっそ皮膚を全部引き剥がしたいと思った。 「絶対見られた……嫌だ……」  油断するとその場に蹲りそうになる気持ちを必死に抑え、私はそのままトボトボと雨に濡れながら家に帰った。
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