3 ドッペルゲンガー
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3 ドッペルゲンガー

 夢を、見た。  そこは見渡す限り、真っ白な世界だった。  照りつける眩い陽射しの下、歩き続ける私の影が蜃気楼のように揺らいでいく。  空を見上げると、白い背景に浮かんだ太陽が円周状の日暈ひがさを描いていた。  いったいどのくらい、私はその果てしない空間を歩いてきたのだろう。  喉が、からからに乾いていた。  流砂となって足元をすくう白い地面に、思わず膝をつく。  汗を拭おうと手の甲で頬を拭うが、その手には剥がれた顔の皮膚がこびりついていた。 「……う」  両手で覆った指の間から、ぼたぼたと鮮血が滴り落ちる。  灼熱の太陽に焼かれて組織の剥き出しになった顔から、液体状になった肉片が次々と溶け出していく。体内の水分が急速に蒸発するにつれ、弾けた血管から噴き出した血飛沫が辺りに飛び散る。 「ひ……」  いくら声を上げようとしても、言葉が喉の奥に絡みついて出てこなかった。  ぼとりと手の中からこぼれ落ちた眼球が、ただれた自分の顔を映しだす。  落ち窪んだ眼窩がんかこそげ落ちた鼻、口からだらりと下がる舌……、  そこに居たのは、顔を失った私自身だった。  いくら顔を掻き集めようとしても、剥き出しになった頭蓋から血と肉が次々と剥がれ落ちていく。  そして……、陽光に晒された私の体は、火焔を上げて燃え始める。  焦げるような臭いの立ち込める中、骨の軋む音を立てて私はその場に崩れ落ちる。  目も眩むほどの白い世界が、全てを飲み込んでいく。  後に残されていたのは、僅かな血の跡と肉塊の欠片だけだった。 「……」  目蓋を開けると、いつもと同じ無機質な天井が見えた。  カーテンの隙間から射し込んでくる朝の陽射しを見つめながら、ベッドから体を起こす。スウェットが体にまとわりつくほど汗をかいていた。  それは最近、何度も繰り返し見る夢だった。  どうしてあんな気味の悪い夢を見るようになってしまったのだろう。  ベッドから降りようとすると、脳の芯を刺すようなひどい頭痛がした。  机の脇に置かれた鏡を手に取り、自分の顔を映してみる。  そこには、いつもと同じように気怠そうな表情を浮かべる羽吹結衣が映っていた。  頬に手を当ててみるが、鏡像の中の彼女は虚ろな眼差しをこちらに向けているだけだった。
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