第四話 飴細工

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   そのひとの、ぎゅっと掴んだ手を離してしまったのは、ほんの不注意のせいでした。  他の屋台と少し離れたところに、飴細工のお店がありました。その小さなお店で、柔和な眦をした白髪のおじいさんが飴細工をつくっていたのです。おじいさんは飴に鋏を入れて、透明な飴をみるみるうちに金魚に変えました。  あ、と思ったときには、もうそのひとの手が、私の手から離れてしまっていたのです。辺りを探しても、そのひとの姿は見えません。  途方に暮れて立ち尽くした私に、飴細工職人のおじいさんは、つくったばかりの金魚を差し出してくれました。 「有難う」  お礼を言って受け取ります。  受け取った飴細工の金魚は、今にも動き出しそうに精巧です。 「さあ、お食べ」  おじいさんは、私の髪を撫でて言いました。黄泉戸喫が気になったわけではなく、金魚があまりに美しいせいで、私は飴を口にできません。私は長い間、精妙な金魚を持って、お祭りの雑踏に立ち尽くしておりました。
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