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その回答でよろしいですか?
「それでは…金杉さんはここで、面接試験…終了となります。不合格です…。どうもありがとうございました…。」
…しまった!
僕は回答を間違えてしまった…。。
果たして…最終面接まで、めでたく進んだ志望者はいたのであろうか…。
『面接げーむ』
……大学生の僕はその日、就職活動で数多くの会社面接を受けていた…。
「はぁ……。」
大きな溜め息をつきながら、なかなかとうまくいかない世知辛さを味わいながら、トボトボと都会の人混みを歩いていると、ある貼チラシが目に飛び込んできた。
『◯◯月××日 21時~ 当社会議室にて、第3回新卒者限定の就職面接を行います。最終面接まで、進んだ方には内定+100万円差し上げます。
私たちの仕事は…社員一人一人の心が形成していくものです…詳しい内容は最終面接でお話します。』
…なっ!
100万円…!?
内定も勿論嬉しい限りだが、プラス100万円とは…。内定蹴ったら貰えないんだろうなぁ…。そもそも、最終面接までいけるのか?…怪しい…怪しすぎる…面接が夜の9時からってのも…ますます、怪しい!!……でも…
気になる…!!
今日の夜だし…別段何もないし、面接訓練の為にも、受けてみるか!
そして…夜になり、自宅のアパートから面接会場へと向かう…。いざ、自転車で!
チャリンチャリン…
約20分ほど、ペダルを漕いでいくと、会場へと着いた…。
都内でも、少しだけ喧騒から離れた場所の3階建てビル…そこが、100万円大盤振る舞いミステリアスカンパニー…
『有限会社マネーの空』
マネーの…そら…から…!?
お金が無さそうな名前の会社ではあるな…。
探りはあまり必要ではない…バカ高い参加料を取られるわけではないし…。
駐輪場へ自転車を停めて、会社の正面入口へと向かう…。
分厚そうな建物の中を覗くと…結構な人が…!
私もソロソロと中に入る…。
複数の鋭い目線が注がれる…。
スーツを着用した若い奴等が、…30名ほどだろうか? 入口ロビーはざわざわしながら、ごった返している…。
…時間は間もなく、午後9時を迎える…
カチッ…9時…
ガーガーガー……
…!? 備え付けのスピーカーから声が…
ざわざわざわ…
『…本日は夜も遅くに、当社面接会場までお越し頂きまして、ありがとうございます。私たちは…会社の為に働いてくれる人材を募集しております…お金では変えられない価値が当社にはある!と自負しております…。まず、第一次面接ですが、奥の二つのドアまでお進み下さい…』
…採用担当者が出てこずに、スピーカーで誘導するだと…。いまだ、かつてそんな就職面接は味わったことはない…!
しかし、金に目が眩んだ亡者?どもは、その声の指示通りに奥へと向かう…。
僕は顔をパーンとはたき、全ての行動が評価対象であるのだろうと、隠しカメラを探しながら…奥へと進んだ…。
『…面接げーむ…開始です…!』
何か…ボソッと聞こえた気がした…。
ざわざわざわ…
奥には…ドアが2つ…そして、貼り紙…。
左の扉…『会社で必要なのは…報告・連絡・相談』
右の扉…『会社で必要なのは…包括的連携力・連続的努力・総合的発想力』
……!!……
なっ…一般常識で考えれば、間違いなく左の扉…。ほうれんそう…。だが、右の扉の新しい…ほうれんそうは気になる…。実働的にはかなり力強さを感じる文言ではある…。
…他の新卒者たちも困惑している様子である…。
「ちっきしょー…!選択肢がまた変わってやがる!!3回目だっていうのによー!」
声を荒げる…志望者…見かけは大学生には見えないが…。
…ってか…えっ…何度も受けれるの?再チャレンジオッケーなの…か…?
一段と意味不明な…面接試験…いや、まだ面接されてもないし…。
『……あと、30秒で決めてください…我々の求める選択をしてくだされば…そこで、第一面接が始まります…。』
まだ、序章ってわけか…。
俺は覚悟を決めて…右の扉を選ぶことにした…!!
他の…志望者も次々と選んだ扉に入っていく…。。
左が10…くらいで、右が20ぐらいか…。
ガチャリ…!
ドアノブを捻り、中に入る…。。
シーン…と静まりかえった薄暗い部屋…。
…こ、これは間違えたか…。。
『…それではタイムアップです…!』
ざわざわざわ…
数秒の沈黙……パッ!と部屋の電気が点灯した。
パチパチパチパチ…
「…おめでとうございます!」
ビクッ…!明かりのついた部屋の中央奥に、1人の男が立っていた…。
きっちりとしたシワのないスーツ姿に、シャキッとネクタイ…短髪で…クロブチメガネをかけた…清潔感ある…40代ぐらいの男…。
…はぁぁ…やっとまともな人に出会えた。
僕は安心感が溢れでた…。
まわりの志望者も安堵と歓喜の声を洩らしている…。
「…それでは、ここに残りました19名の皆さんで第一次面接を行います…。一応、履歴書を頂きましょうか?」
…各人とも、鞄から履歴書を出して、面接官のようなその男に渡していく…。
全部集めると、別段…読む気配もなく、隅の書類ボックスに履歴書を全て入れてしまう。
「…ありがとうございました。…それでは、第一次面接を始めていきましょう!ちなみに、この後の第二次面接に合格すれば、はれて最終面接へと進みます。どうです…ワクワクしませんか?」
…メガネ面接官はニコッと笑う…。
いや、恐いから…。だが、あと2回の面接を進み抜けば、100万円…いやいや、内定が貰える!…仕事内容は全く不透明だが…。
「…それでは、皆さんにはこれからアイマスクをつけて貰います…。」
ゾロゾロッ…!
隅の横扉から、2名のスーツ姿の30代?ぐらいの男が、部屋の中に入ってくる…。
またもや…ビクッとしたが、志望者全員にアイマスクを渡して、そのまま、メガネ面接官の隣に小綺麗な姿勢で直立した…。
…なんなの?この…縦列社会猛烈アピール風味は…。。で、アイマスクって…視界を奪う面接試験って…。
まわりがつけ始めているので、とりあえず、アイマスクをつけてみる…。
やはり、真っ暗で何も見えない…。
「…準備は整いましたね…。今から私の質問にイエスなら、挙手をお願いします…。ある程度、数が減ってきましたら、終わりにします…。」
…!…えっ、質問…挙手…数減らす…。理不尽な集団面接…スタートですか?
「質問…あなたたちが社会人となって、目標とするのは取締役含む管理職以上の位に居座ることですか?」
…はぁ?…いやいや、分からないって…確かに就職して、その会社に長年お世話になるなら、給料も安定してくるその役職を目指すことは当たり前なのかもしれない…。つうか、居座る…って、言い方…!
ここは、少し謙遜して、とにかくヒラでがむしゃらにが正解か…?新しい労働力…若い力…責任感もまだまともに備わっていない輩が、会社員になる前から…高みを目指すなということなのか…。。
くっ…くそっ…。
「…それではイエスの方は挙手願います…!」
…僕は挙げなかった…。。
「…ほぉ…では、挙手された方は不合格となります…。お疲れ様でした…。」
…!?…やっ、やった!残留…。
ガチャリ…カッカッカッ…。
…何名消えたのだろうか…分からない…。
質問は続く…。
「…それでは、質問です。会社に於いての使用者と雇用者…どちらかというと、雇用者のほうが楽だと思っている…?」
…使用者の取締役経営者よりも、雇われの労働者のほうが…ラク…。…いや、一概にそうなのか…ただぶら下がっているだけのサラリーマンならともかく…目一杯残業して、仕事をこなす…サービス精神の強制…それに見合った対価…休養…などがしっかりと管理されれば…。中小零細企業は、どんな理由であれ、業務を疎かにできない…一人一人のマンパワー…自分がやるしかない…上長命令違反などは…取締役が現場に出ることだって…。
……楽になるかどうかは、会社形態の本質に関係してくる…。決まった正解などあるはずも…。。
…そうか!…さっきの質問に連動して、僕たちは初っぱなは間違いなく、雇用者…新人が楽な方を選んでいいわけがない…。会社のため…自分自身の成長の為…給与は後からついてくる!!
これだ!!
「…それではイエスだと思う方は、挙手をお願いします。」
…僕は…頭の中がぐしゃぐしゃになりながらも…挙手否定…。
「…挙手された方は、ご退出願います…。」
当たった…!?
ガチャリ…カッカッカッ…。
「…今、残っている方、大変におめでとうございます!見事、第一次面接合格です。そのまま、奥のドアに入って頂いて、第二次面接を行います。」
…ふぅ…はぁぁ…どんな、会社面接よりも息苦しかった…。だが、僕はやりおおせた…。考察に正当性があるかどうかは甚だ怪しいが…僕は第二次面接まで、行けた!100万円はすぐそこだ…。いや、内定は…。。
…アイマスクを取る…。
えっ………
残った…志望者…3名…。。
意外と少ない…。裏を掻きまくった結果なのだろうか…。
「質問の本質にさえ…気付けば容易い面接ではあったのですが…。」
…そう、言葉を言い残し、メガネ面接官は早々と奥の第二次面接へのドアを開け、出ていった…。
…私を含め、残った3名は、顔を見合わせる…。。
みな…そこに、笑顔はなく、必死さだけが伝わってくる…。ただ、一人を除いては…。。
冷静沈着な雰囲気で少し小柄な志望者は…
少し小肥りで眼鏡をかけている頭が良さそうな志望者と僕に向かって…
「みんなで、最終面接まで進もう…」
と言葉を投げてきた…。
…私は、コクリと頷き、100万円パワーで…いやいや、将来的希望と名誉のもとに…最後まで闘い抜くことを誓った…。
…3人でドアを開けて、中へ入ると、そこは通路であった…。待合席的なソファーが設置されている。
そして…上階への階段…上り口には、『二階 第二次面接↑ 準備ができた人からお一人ずつお願いします』の誘導サイン…。
…ここからは、一人ずつ…。ゴクッと生唾を飲み込む…。不安がのしかかる…。やはり、一人は緊張するものだ。
僕たち三人は顔を見合せ…
「ジャンケンで決めようか?」
クール男子は提案する…。
わかった…と頷き、最初はグーの構えをとる!
「負けた人から順番に行こう…。」
御意!…ジャンケンポン!!
1番…小肥り男子
2番…緊張男子
3番…クール男子
となった…。。
小肥り男子は、深く深呼吸し、こちらに固く握った拳を見せつけ、階段を上っていった…。
なんだか、新しい結束力が誕生したなぁ…。
本当にみんなで、最終面接までいけるんじゃないかと…300万円…ゲット!いや、複数内定ゲット!!
僕はそう思った…が、現実はそう甘くはない…。
クール男子は、遮光カーテンを開け、真っ暗な窓の外をじっと眺めている…。
僕は、うつむき加減でソファーに座り、じっと二次面接の内容を模索していた…。
二人に会話はなかった…。
お互いに素性も知らなければ、面接試験のヒントを相談することもなく…刻一刻と時間は過ぎていった…。確かに、これは自分自身との戦い…友無き、過酷なサバイバル…。
そうこうしてるうちに…
『次の人…どうぞー!』
また、スピーカーから声が聞こえる…。
小肥りの彼はここには戻ってこなかった…。おそらく、二次面接のヒントを与えないために非常口階段かなんかで、出ていったのだろうか?…いや、最終面接まで進んで、別の部屋に通されたとか…。
…僕は、クール男子に目配せをしながら、なぜか、親指を突きだした拳を彼に向けた…。
彼もそれを見て、同じように僕に拳を突きだしてくれた…。
ありがとう…行ってくるよ…緊張が少しほぐれ、僕は歩みだす…。
カンカンカン…。
『二次面接→』
コンコンコン…!
ノックして…部屋のドアを開ける…。
ガチャ…
「失礼いたします!!」
!!…眼前に広がるは、1~3までの数字が映し出されている壁面ディスプレイ…。
…結構お高そうな…。今度は、選択肢問題とでもいうのか…。
面接官の姿は…見えない…ディスプレイの裏側にでもいるのだろうか…。
「…それでは、二次面接を始めましょうか…金すき…金杉さん…。」
あっ…後ろにいるようだな…面接なんだから顔を見せーい!!っつうか、決して間違えてはいけない名前の読み方…。
「…今からあなたの目の前にある大型ディスプレイに3つの選択肢が表示されます。あなたが会社に求めるものを選んで、スイッチを押してください…。」
…裏側から、20代後半くらいだろうか、パンツスーツ姿の強ばった表情の女性が現れ、僕にスイッチを渡してくる…。なんだかいい香りがした…。
1~3までの3つのボタンが搭載されたスイッチ機器…。
なぜだ…質問形式で普通に番号を答えるタイプでいいのでは…。
「…全部で3問ありますが、途中で不正解の場合はその時点で終了となります…志望者ならぬ、死亡者…となります…ククク…コホンッ…!」
…えっ、なに今の?いらなくないですか?ある意味、怖いんですが…そのジョークは…。
ババンッ…!
一呼吸置くのも束の間、ディスプレイに文字が表示される…。
1番…「労働賃金上昇」
2番…「能力向上育成」
3番…「社内環境整備」
…いきなり、超難問じゃないでしょうか?いやいや、なんなら全部求めたいんですが…。
僕は心の底から悩む…面接において、いや…人生においてここまで悩んだことが未だかつてあっただろうか…。
…僕が求めるもの…そうではなく、御社が求めるもの!
これか…!!
ポチッ…
2番の上部LEDが点灯する…。
ゴクリ…と喉を鳴らす…。
「…オッケー。クリアです。次の選択肢へと移りましょう…。次は映像に着目してみてください。」
…安堵と歓喜のガッツポーズをする間を与えてくれず…淡々と…。そして、まさかの映像問題に移るという奇妙な面接…。
…ボワンッ
…んっ!?…こ、これは!
Vチューバー…かな?可愛いらしい女の子が画面に映りこむ…。スーパー表記をみると、名前はソラちゃんらしい…。
3つの画面に映ったソラちゃんずは、各々が別のアクションをとり始める…。
1番…「先輩や後輩、同僚と和気あいあいとした雰囲気で、ソラちゃんは笑顔で仕事に励んでいる…ような。」
2番…「ムスッとしたキメ顔で部長席?に座り、部下たちにあれやれ!…これやれ!と、命令を下しているソラちゃんの姿…のような」
3番…「日々、研究開発に励み、失敗してはまた繰り返し実験を行う…ひたすらなる試行錯誤との戦いを休む間もなく、望んで励んでいるソラちゃん…のような。」
…愛くるしさを感じるソラちゃん、この会社のマスコットキャラクターかなんかだろうか。声が出ていないのが非常に残念ではある…。
現実世界に戻ろう…。
…うむ、3番は間違いなく有り得ないだろう。このご時世…働き詰めの過労死が大きな社会問題となっている…。
…僕が心から求めたいのは1番…御社だってきっと想いは同じのはず。迷うことなき、一択…!
僕は1番のボタンを押下した…!
……………………1年後……
僕は大学をそこそこな成績で卒業し、就職もできた。第一志望の業界ではなかったが…。それは、仕方ない…とにかく社会人1年目として、頑張るだけだ!夢と希望を胸に!
社会へ羽ばたく前に…僕には気になっていることがある…。
今朝の新聞記事である…。
『株式会社マネー…空前絶後の重過労問題…是正勧告は、呑めない…。。自己破産を余儀なくされる!近隣住民から寄せられた苦情により、調査…夜な夜な響く騒音…漏れだす電気の灯り…』
間違いなく…あの時の会社であろう…。過労死亡者さえ、出してはいないが、出てからでは遅い…。致し方ないことだろう…。やらなきゃ、会社は存続できない…。結果的に潰れてしまい…ご破綻…。働き方改革の推進…その犠牲は大きい…。なんだか、やるせない気持ちがある…。
僕が気になったのはこの後である…。
『小さな会社ながらも、家族のような結束力で、画期的な開発技術を生み出してきたが…なかなか浸透せず…』
開発関係の会社だったようだ…理系男子の活躍か。僕は文系だから…結局、無理だったのかな…。
『内観を損ねることがない小型スピーカー…取り付けは大変簡単。ワイヤレスにもなっており、手軽にスマートホンなどで音声を飛ばすことが可能。』
『指紋認証式ドアノブ…手袋などを付けていると絶対にドアは開かない仕組み。特定指紋を記録することも可能。指紋が必ず残るという点で、防犯対策としても有効活用できる。』
『高速スキャニングボックス…紙媒体の記載情報を高速かつ繊細に読み取り、電子データ化する。煩雑に入れたとしても、その読み取り能力は落ちることはない。』
『Vチューバーソライブ移動式大型ディスプレイ…当社宣伝用に開発。』
…二次面接まで残った彼らは一体どうしてるのだろうか?クールな彼は最終面接まで無事に進み、100万円を…いや、内定を貰ったのだろうか…。それとも、内定放棄の貰い逃げ…!? そもそも、貰えたのか?そんな大金を…。
…今となっては無駄な詮索だ…止そう…と、思った時、ある求人広告が目に飛び込んできた。
『株式会社マネーの虎…』
なんか、聞いたことがあるような名前だ…。
『やる気がある社員募集…!年齢不問…!限界点を通り越した先に得るものがある!…最終面接まで辿り着くことがてきた貴方には、内定と同時に…』
『…1000万円を贈呈!…あなたの夢を私が叶えます…!』
いっ、いっ、1000万円…!!け、桁が…0が一個…増えて…。
端からみたら、申し分なく怪しいが…僕は広告に載っていた代表取締役の顔写真を見て、納得した。
彼は、その道を選んだわけか…僕にはきっと真似できない…。お金よりも命あっての人生だから…。
【完】
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