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 ソレは当初、建物の合間を無秩序に飛び交う、ただの奇妙な波紋だった。  ソレは大きく成長すると、効率的で規則的、その上人間生活において何かしらの事故を起こすこともない。させない。  参考までに簡単な例を挙げるならば、人の不注意によって引き起こされることも多い自動車での衝突事故自体が起こり得なくなった、ということか。誰かが事故ゼロ運動などといった注意喚起を行う必要などもう、ない。  わざわざ警察が出向いてまでの交通指導も必要ない。  ――何故なら皆、生まれつきそれぞれに与えられるソレが現れたからだ。  ソレはあまりにも自然と人々へ根付いていたようだが、私からすれば唐突に現れた不自然だった。だが、やがてソレは人それぞれの潜在能力を引き出し教え導くものとなった。  元を辿れば人が自ら創り出したはずのソレは、今では創造主である人を支配できるまでとなったのだ。  そしてさらにソレは人間の限界を引き出す術を与え、魔法などという超常の存在を身近な存在とした。人々は新たな恩恵……空想の実現という現実に、沸いた。  ……無理もない。人の創る空想とは言い換えれば理想や希望、願望によって生み出される手の届かないはずの存在、だったからだ。  ――ふと気付くと。ソレは人々に等しく個々に与えられ、それぞれの個性をステータスなどという奇妙なもので表記できるよう示していた。  目に見えて自分の身体のことが解るようになったのだ、飛躍的な成果が促されることとなった。自己の苦手や得意を常に把握でき活かせるのだから、齎せるだろう結果の先が明瞭に見据えられ、人は効率的に自己を成長できた。  ソレはまた、長年積み重ねて得られる経験や技術をスキルなどという枠にあてはめ、個人の意思によって自動的に発動できるプログラムとして機能させた。  特に継承が危ぶまれた技術や伝統はこれによって守られる結果となる。人が言い伝えるためのプロセスが簡易になったのだ、匠の技を誰もが取得できる機会が与えられた。
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