老先生と私

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老先生と私

「ただいま。あれ、母さんだけ? 父さん、今日戻ってくるんじゃなかったっけ」  とある日の夜、リビングに顔を出した彰人は、大きな目をきょろきょろと動かしながらそう言った。 「おかえり。学会の会議が延びたからもう一泊するって。明日の昼には帰ってくるみたいよ」 「……ふーん、そっか」  また別の日の朝のこと。 「おはよう。彰人は? もう出かけたのか?」  徹夜明けらしき顔でふらふらとリビングに降りてきた一静さんがかすれ声で言った。 「おはよう。他の大学との合宿があるって、夜中に出かけたわよ。夜行バスで福岡まで」 「福岡? ずいぶん遠くまで行くんだな」 「なんかよく知らないけど、急に参加できることになったんだって。慌てて荷物詰めてたわ。日曜にまた夜行で帰ってくるって」 「……そうか。ありがとう」  そう言うと、一静さんはまたふらふらと自室へ戻っていった。 ――最近、うちの男たちの様子がおかしい。  
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