本当にあった怖い話……?

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本当にあった怖い話……?

 夏の風物詩のひとつ。怖い話。  たまには、そんな話もしてみようか。  とは言え、私には霊感の類もなければ、肝試しに行ったこともない。  ボーっとした性格ゆえ、おそらく通りすがった霊たちのほとんどを見逃していると思う。  そんな私にも、ぞっとする怖い話がある。  あれは、仕事から帰ってきた、ある夜のことであった。  帰宅して手洗いを済ませた後、私が真っ先にやるのは着替えである。  窮屈なオフィススタイルから脱却して、ダルダルのジャージに着替えたい。  ストッキングなんていつまでも履いてられるか。  お弁当箱を洗ったり、買ってきたものを冷蔵庫にしまうのはその後だ。  その日も、帰宅してすぐに着替えをしたのだ。  私の仕事はザ・デスクワークなので、体力はあまり消耗しない。  その代わり、頭はそれなりに使う。  仕事が終わり、電車に揺られて帰ってくるころには、普段よりさらに拍車をかけて、ぼけーっとしている。  駅までの帰り道、帰ってからの支度など、体が覚えている通りに動かしているだけだ。  もしくは、週末何を食べようか、何を書こうかなど現実逃避で頭の中を満たしている状態である。 ――疲れた。今日こそ早く寝よう。  シャツのボタンを外して脱ぎ、洗濯ネットに突っこむ。  その時、何を考えていたのかは覚えていない。  が、何か違うことを考えていたのは確かだ。  スラックスのベルトに手をかけて、するりと抜き取る。  続けて、上のフロントボタンを外す。  その流れで手を下におろし、チャックを開けようとして――。  私の意識が戻ってきた。  手が止まる。  チャックはすでに開いていた。  もしかしたら、自分では気づいていないだけで、手が先にチャックを下ろしていた可能性はある。  しかし、私がぼーっとしていたせいで、真相は迷宮入りしてしまった。  帰宅後、いつの間にかチャックを開けていたのか。  それとも……。  チャックは一体、開いていたのだろう。
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