増えたおでん、捨てられた金

2/3
前へ
/153ページ
次へ
 さて、何を買おうか。  身体が冷えているので、温かいものがいいだろう。おでんでも食べようか。  小さめのカップに入った、おでんを見つける。そのまま、レンジで温められるやつだ。  おお、最後の1つではないか。これは運がいい。  あとは、レジでチキンでも買おう。疲れた時は肉、これ鉄板である。  他にも、諸々カゴに突っこんで、レジに向かう。  稼働しているレジは3か所。  幸い、列は出来ていなかったので、そのうちの1か所にカゴを置いた。  財布や、自前の袋を出しながら、店員さんが商品を読みこむのを、何となしに見て――。 「!?」  驚いた。おでんが、カゴから2つ出てきたのだ。  え、何で? 私、1つしか買ってないはずよ?  これは、私がボーっとして無意識に2つ買ってしまったのか?  まさか、誰かがこっそり入れたわけじゃないし。  うわ、まずいな……全く、記憶がない。  って、いやいや。まずは1つ取り消してもらわねば!  ここまで考えること、約コンマ4秒(熊野測定)。 「あの、すいません、そのおでん、あの……間違えまして、1個、入れちゃったけど1個でいいんです、あの、間違えました」  在宅勤務のデメリットは、他人と話す機会が減るゆえに、会話が壊滅的に下手になる点も挙げておこう。 「1つでいいんですか?」 と店員さん。簡潔に言えば、そういうことになる。 「あ、はい、1つです、すいません」  とにかく恥ずかしくて、ペコペコするしかない。  普通に考えれば、おかしな話なのだ。  だって、自分で入れたんじゃん、と言われたら、もう何も言えない。  ダメだ、今の私はいつもに輪をかけて、どうかしている。  サッサと自宅に引き上げよう。これ以上、街にいてはいけない。  お会計、1198円。  私は1200円を出した。おつりは2円。  よし、これで完了。  レシートと1円玉2枚の乗ったトレーに手を伸ばす。  私は、レシートを持って帰らない派だ。  レジ横に、不要レシート入れが置いている場合は、必ず捨てていく。どこにも捨てるところがなければ、家に帰ってから捨てるが。  セブンさんともなれば、もちろん不要レシート入れは置いてある。  もちろん、今回も捨てていこう。  もう、何も考えなくても手が覚えている。  頭はぼんやりしたまま、私はトレーに手を伸ばす。  パッとつかんで、レシート入れに捨てた。 ――1円玉×2枚を。
/153ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加