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やはり予想していた通りの山道である。しかも、幅が狭い。
これは……対向車が来たらすれ違えるだろうか?
そう思わせるほどである。
大抵、こういう山道には、程よいスパンで車1台分くらい寄せて止められるくらいのスペースがあるものだ。
もし、前方から対向車が来て、すれ違えないのであれば、どちらかがバックしてその広いスペースまで戻ればいい。
または、見通しが良ければ前から車がやってくるのがわかる場合もある。
そうしたら、最初から広いスペースで待つ、というのもアリである。
しかし、そのスペースがほとんどない。
普通車1台がちょうど通れるほどの幅しかない。
私の実家の前の路地と同じか、それよりも狭い。
そりゃ、大型バスなど通れないわけだ。
さらに悪天候のせいで、視界が悪い。
カーブ地点に設置されたミラーも、曇っていてほとんど見えない。
こんなところでヘイヘイ、とスピードを出していても仕方ない。
私はノロノロ運転に切り替えた。
後続車がいないのが幸いだ。
今のところ、対向車も来ない。
両方いっぺんに来られたら最悪だ。
私が、崖から落ちるほか、すべがない。
このドキドキ感、お分かりいただけるだろうか。
対向車と後続車が来てしまったときの焦りを、運転をしない方に例えてお伝えするならば、激混みのスーパー内で大きいカートを押していたものの、他のカートに挟まれて身動きが取れなくなってしまったときの焦燥感に近いものがあると思われる。
しかも、ナビの地図を見れば、私の進んでいる道は、もうすぐ終点を迎えようとしているではないか。
つまり、行き止まりなのである。
しかし、辺りは木々と山肌しか見えず、駐車場らしきものも、観音も何も見えてこない。
明らかに、限られた人しか来ないようなところに来てしまった気がする。
道を間違えたか?
いや、そんなことはない。
カーナビは私の通っている道を行けと言う。
左折した際に、確かに富山観音はこちら、という看板があったのだ。
間違ってはいないはずだ。
ドキドキしながら進む私に対して、とうとうナビが禁断の一言を言い放った。
「目的地付近です、音声案内を終了します」
終了するなああ!
思わず、私は車内で絶叫した。
目的地とは何なのだ。何もないではないか。
確か公衆トイレと設定していたはずだが、およそ人が立ち寄るようなところなど、見当たらなかったではないか。
ナビよ、君にとってのトイレとは一体何なのだ。
そう問いかけたい気持ちでいっぱいだったが、一仕事を終えたナビは、うんともすんとも言わなくなってしまった。
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