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外に出た。
雨が降っている。誰もいない。
面白いくらいに、雨の音と、鳥の鳴き声しか聞こえない。
私が何も言いさえしなければ、そこは人の立ち入らぬ空間であった。
先に林道が気になって、少し上ってみた。
しかし、思った以上に延々と続くので、あきらめて途中で下りた。
もっと先まで行けるかな、なんて安易な気持ちで車で上がらなくてよかった。
それこそ『バックで下ろうぜ』状態になってしまう。
なるほど、地図に表示される道というのは、アスファルトで舗装された道のことなのだ。
今までそんなこと考えもしなかった。ゆえに、知らなかった。
ということはつまり、私が地図上で見て認識しているよりずっと、この日本中には山道や小道、裏道があふれているということになる。
やはり、自分の足で来てみないとわからないことは、たくさんあるものだ。
さて、林道をあきらめた私は、階段の方に行ってみることにした。
入り口に、小さな看板が据えてある。
――松島・四大観 麗観 富山観音。
ここか。
ということはつまりだ。
この謎のスペースこそ、駐車場だったということになる。
わ、わかりづらい……。
駐車場というからには、せめて白線の1つか、駐車スペースと案内した看板でもあるかと思ったのだが。
しかし、長そうな階段だ。
すでに靴には水がしみ、昨日の山寺に登った際の筋肉痛が、すぐ後ろに迫っている気配を感じたが、ここまで来て上に行かないのはもったいない。
「行くか!」
どうせ、誰もいないのだ。
私は声に出して、自身を鼓舞し、階段を踏みしめて行った。
~*~*~
↓階段を少し上って、振り返って撮った写真。
スペースにぽつんと取り残されているのが、私が乗ってきた車。
~*~*~
息が切れる。日ごろの運動不足のせいだ。
足が冷たい。階段は水はけが悪かった。
まだ続くのかと息をつきながら登ること、10分か15分ほどだろうか。
ようやく頂上についた。
先ほどの駐車場よりは開けた、木々に囲まれた場所に、小さな門と、観音堂と鐘があった。
先客はいない。
雨の音が、さわさわ音を立てている。
しとしと、でもなくザーザーでもなく、さわさわだった。
あまり雨が強くない、というのもある。
おそらく私は今、雲の中にいるのだろうなと、ぼんやり思った。
時折、葉や枝にたまったしずくが、パタタッと不規則なリズムで落下する。
あとは、ホーホケキョの声くらいか。
なるほど、人のいない山の中の雨は、こんな音がするのか。
木や草に落ちる雨の音なのだ。
見れば、観音がここに安置されたのはおよそ1200年前だというから驚きである。
みんな、いったいどうやってここまで登ってくるのだろうか。
一通り、ぐるっと眺めた私は、一応、展望台にも行ってみることにした。
天気が悪いのはわかっている。わかっているが……。
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