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さて、道が混むことを考えて、少し余裕を持って出なければならない。
私は立ち上がって、入店する際に使用した、下駄箱の鍵を出そうと、ジーンズのポケットに手を突っこんだ。
……おや?
確か、ここに入れたはずだ。
しかし、入っているのは、車のキーだけである。
別のところに入れたのか?
そう思って、私は、反対のポケット、後ろのポケット、リュックの中、リュックのポケット、全てのポケットを探した。
しかし、ない。
リュックの中が汚いせいかと、物を出して探したが、ない。
参った。
しかし、なくしたとは到底思えない。
脱衣所でも、忘れ物がないことを確認した。
落としたって、わかると思うのだが……。
弁償……?
まずいな、と思いながら私は、最初に手を突っこんだポケットから車のキーを出した。
そして、もう1度手を突っこんで――。
あるじゃん。
どうやら、車のキーのさらに下に潜り込んでいたようだ。
何とも言えない脱力感が、私を襲った。
やはり、こうなのだ。これが私の通常営業なのだ。
大体、物をなくした、ないない、とひとしきり騒いだ後、ひょっこり見つかるのだ。
厄介なのは、また誰かに報告したり、一緒に探してもらったり、第三者を巻き込んでから解決するのである。
その点、今回は1人で見つけることができた。
まあ、なくしていたわけではなかっただけ、よかったとしよう。
それより、時間がまずい。
こんなくだらないエピソードで、文字数もページ数も無駄に使ってしまったが、時間も無駄使いしてしまった。
私は瓶を戻すと、あわてて外に飛び出したのだった。
~*~*~
車を走らせて、仙台まで戻る。
高速を使ってもよかったが、あまり時間も変わらなそうなので、下道を使った。
もちろん、カーナビの案内に従って進む。
しかし、去年1度通っただけの道や景色を、案外覚えていたのが楽しかった。
そうそう、ここは右折車が多くて。
ああ、前に来た時もここで曲がったな。
この辺から、路線バスが通ってくるんだ。
楽しいのと、時間があまりないのもあって、スピードはやや出しつつ、走る。
といっても、あまり飛ばすわけにもいかない。
そもそも、混んでいるとまでは行かずとも、連休中の日中ともなれば交通量は多い。
下手に抜かしても、どこかで詰まって、後続車に追い抜かされるのが、せいぜいオチである。
信号を過ぎるとき、進行方向が同じ歩行者用のそれが、チカチカ転倒し始めたら、少しスピードを上げるくらいか。
そうすると、自動車用の信号が黄色になる前に、通り過ぎることができるのだ。
なるべく信号に引っかからないようにするための、小さな工夫である。
黄色になってから、いきなりスピードを上げるようでは危ない。
本当の運転好きというのは、もっと先まで流れを読んで、安全にスマートに運転してこそ、である。
私も、それくらいかっこよく運転できるようになりたいものだ。
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