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普通、『あれは何か』と問われたら、『どれのこと?』と聞き返すのが、人と人とのコミュニケーションで行われるやり取りである。
しかし、この辺が早とちりな性格と言うか、ドジのゆえんと言うべきか、何故か自分の頭の中であさっての方向に話を完結させてしまうのが、私のよろしくない点である。
弟があれは何かと尋ねて、私が勝手に弟を無知に仕立てあげること、その時間わずかコンマ5秒ほど。
弟は、私があの建物のことについて返事をすると思っている。
そんな彼に、私は堂々と言い放った。
「何って決まってんじゃん、追い越し禁止だよ」
一瞬、間が空いた。
我が弟は、追い越し禁止の意味も知っていたし、姉の思考回路がアホなこともよく知っている。
そのわずかな時間で、彼は一体何が起きたのか理解したようだ。
いきなり、マシンガンのように、『ぶはははっ』と笑い出した。
「??」
一方の姉はまだわかっていない。
「違うww お姉ちゃん、俺が言ったの、あの高いビルの話だよww」
ビシッと、前方を指さして言う。
「あえ?」
やっとわかった。
「あと、追い越し禁止は俺もわかるからww」
「あ、そう、そういう……ww はははww」
2人して、車内で爆笑である。
そして、会話は『追い越し禁止』と銘打たれたキャンパスのビルの妄想トークに移る。
「あれは追い越し禁止だから、横の道路を通って、追い越しちゃいけないわけだ」
「飛行機もダメだね」
「上を通過して、追い越してはいけないね」
「いやあ、そんなこと決して、してはならない」
「1度、旋回して回らないといけないな」
「いかなる乗り物も追い越してはならないから」
「そうそう、いかなる乗り物も追い越してはならない」
「法律で決まってるから」
「厳密にね」
「罰せられるから」
「罰せられますね」
ただのキャンパスのビルが、いかなる乗り物も遠慮して避けて通らなければいけない、取り扱い注意の超重要建築物に突然仕立て上げられてしまった。
キャンパスとしても、勝手に勘違いされて、勝手に腫れもの扱いされて、勝手に笑いのネタにされて困惑していることと思うが、この姉弟にそんなことは関係ない。
結局、丘を下り切るまで2人でゲラゲラ笑い続けたのであった。
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