この親にしてこの子あり→’19.06.22

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 やはり、母が先に到着していた。  改札を抜けて、辺りを見回すと、すぐに見つけた。  あの、しょぼんとした背中は間違いない。  そして、こちらには全く気がついていない。  よし、背後からこっそり近づいて、黙ってリュックを持ち上げよう。  何度もこれをやっているのだが、いちいちびっくりする様が面白いのだ。  すす、と寄って、ぐいっと母のリュックを持った。  母がぬう、と振り返った。  顔が疲れている。  どうやら、待たせすぎたようだ。  いや、それよりも――。 「重っ!」  母のリュックを持ったまま、私は思わず叫んだ。 「何これ、何入ってんの?」  母は、私をも上回る肩こり持ちで、月1回は鍼灸院に通っている。  持ち物は1gでも軽くすることに命をかけている母が、これは一体どうしたことか。 「お泊りセット」 と母は言った。 「……?」  さすがに驚いて、一瞬言葉を失ってしまった。 「え、まずかった?」 「いやいやいや、全然平気」 「明日は休み取ったんだ」  よく、うちに泊まりに来ればいいのに、なんて私もよく言っていた。  確かに、明日は何もないし、母が来て困ることもない。 「2人には言ってきたの?」 と私は尋ねた。  実家には、父と弟がいる。  一切の家事をしている母が、外で1泊とは、さすがに言っておくと思うのだが。 「言ってきたよ、――弟には」 「え? お父さんは」 「言ってない」  2人して爆笑である。 「後で、メールする」
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