母、テーパードにやられる

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母、テーパードにやられる

 母娘で服を買いに行く。  これだけ言うと、世間一般的には素敵なお店で、素敵な服を和やかに選んでいる、というイメージを持たれる恐れがある。  なのでもう、最初に申し上げておこう。  我々が向かった先は、JEANS MATEという店だ。  元々はジーンズ専門店であったが、最近はシャツから上着から、一通りの服はここで買える。  さらに申し上げておくと、母娘が向かうのは、メンズである。  レディース? そんなもの、試着したところで腕も足も通らないのがオチである。  はっきり言って、私は体格上、女性ものが着られない。  メンズで合わせたほうがよほど早い。スニーカーだって、メンズだ。  大体、メンズだってSは論外なのだ。  シャツでM、基本はLかXLである。  ゆえに、フォーマルやスーツは本当に苦労した。  さて。  せっかくなので、私も服を買うことにした。  夏に向けて、7分丈のズボンとシャツがほしいところだ。  何枚か取って、試着。  うん、着られる。お買い上げ決定。  一方の母は、かなり苦戦しているようだ。  買いたいときに限って、これ、というものがない。  ようやく選んだズボンは3本。  同じ棚に並んでいる、似たようなデザインのものである。 「これ、どうかな……合うかなあ……変じゃないかなあ」 「とりあえず試着してみたら」 と私は言った。 「そもそも着られるかどうか、話はそれからだ」 「それな」  言い残して、母は試着室に向かった。  一応、サイズは2種類、計6本持って行く。 「……どう?」  試着を終えた母を見て、私は考えた。  何だか変だ。見慣れない感じがする。  お腹からひざ辺りが特にぶかぶかしている。  まるで、子供がお父さんの服を着ているみたいだ。 「何か、サイズ感あってないね」 「やっぱり?」  次だ次、と私はカーテンを閉めた。  他の2本も同じ印象。  一応、と上のサイズもはいてみたが、違和感は増すばかり。 「……はあ」  母 VS EDWIN、4戦全敗。  死んだ顔にはビッシリ汗が浮いている。 「いや、下向いて、よいしょよいしょってはいてたら汗が……」  ハンカチでぬぐいながら母が訴えた。  私は、母の試着したズボンを見て、気がついた。 「かあちゃんこれ、全部テーパードじゃん」 「……てーぱーど?」
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