母、テーパードにやられる

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「つまりね、」 と私は言った。 「ひざまではゆったりしてて、足首に向かって細くなるのが、テーパード」  足を綺麗に見せるための工夫ではあるが、多分背の高い人のほうが似合う。ひざ下から絞るための、足の長さが必要だからだ。  足の短い、ちょこんとした背格好の母には、合わない。  そもそも母は、太ってもいないし、むしろ足自体は細いのだ。  なら、サイズの合ったストレートやスリムタイプの方が合う。 「ぬあー」 と母は言った。 「そう言われてみれば、私いつもストレートだったわ」  私はずっこけた。 「いやいや、ちゃんと先に見ようよ」 「だって1年以上服買ってないんだもん。いろいろ忘れちゃって」  忘れすぎだ。  母の買うべきタイプがわかったところで、仕切り直しだ。 「これ、どうかな」 「だから、テーパードって書いてあんじゃん、よく見なさいってww」 「英語読めない」  どうやら、今はテーパードが主流のようだ。  かく言う私自身も、テーパードタイプのズボンが多い。  母の第一希望なるストレートはほとんどなく、ほとんどスリムタイプから選ぶこととなった。  かれこれ、10本以上は試着しただろうか。  最後の方になると、試着室から、母がよろけてぶつけたであろう、ドゴン、という音が聞こえる。大丈夫か。  それでも何とかお買い上げを決めたズボン、計4本。  次、いつ買いに来られるかわからないから、買える時に買っておくのだそうだ。  時刻は夜8時を過ぎている。  ようやく前半戦が終わった。  次はシャツや上着を買うのだ。  私はお腹が空いたし眠いし、母も疲れたし眠いしで、頭がうまく回らない。  まして一人暮らしの私と、元々無口な母とで、普段あまり会話をしていない2人組が、テンションに任せて話すと、それはもう大変なことになる。  噛むわ、謎の言葉を発するわで、およそ人の会話をなしていなかった。  しかし、こんな有様でもキチンとコミュニケーションは取れているのだから、人間とは不思議なものである。
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