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場面に戻ろう。
母は、きょろきょろとメニューを見るのに忙しい。
「うーん、こうやって見るとどれも美味しそうだねえ。全部食べたいね」
それは無理だ。
「でもね、今日はラザニア食べるって決めてたから、ラザニアにする」
母は、ここのラザニアがお気に入りである。
「ずっと、楽しみにしてたから。もう、1か月くらいラザニアを支えにして頑張ってきたから」
どれだけ楽しみだったんだ。そこまで心の支えに勝手にされては、ラザニアもさすがに困惑であろう。
決めた。
私は夏限定メニューのカレー、母は予定通りラザニアを注文した。もちろんコーヒーも一緒だ(母は、胃への負担を考慮してカフェオレにした)。
料理が運ばれてきた。
パクっと、食べる。
「これだこれ……」
2人して、謎の感動に包まれていた。
「やっぱり星乃のご飯は美味しかった……」
私の食べたカレーはキーマカレーと、普通のカレーのハーフで、初めて食べたメニューであった。
実は私、辛い物がめっぽうダメなのだが(嫌いなのではない。辛いのがつらいのだ)そんな私でも食べられる。辛さがウリ、というよりも、味のコクが前面に出た、いかにもな喫茶店のカレーである。
一方、母は正反対で辛い物が大好きである。
パスタにはタバスコ、そば・うどんには一味唐辛子、問答無用でかける。それも、量がおかしい。
母のタバスコonラザニアを激写したので、ご覧頂きたい。
右上に映る赤いのは、ソースではない。タバスコである。
しかも、これで全部ではない。あくまで、このかけた範囲だけを食べるのだ。そして、また食べる部分にかけていく。
4、5回はこの量のタバスコを振っただろうか。
「うん、美味しい、美味しいよ」
母は平気な顔で食べている。
「これね、そんな辛いタバスコじゃないから全然いける。うん、美味しいよ」
私が生まれたときから、母の味覚はこんな感じであった。
おそらく、母も頭のネジを何本かなくしていると思われる。多分、昭和に置いてきてしまったようなので、もう取りに戻ることはできまい。
途中、お互いの料理を1口ずつあげ合った。
私がタバスコのまだかかっていないところを食べたにも関わらず、実は少しかかっていたのだろうか。その後の水がまあ止まらなかったことも、合わせて申し上げておく。
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