紛失事件

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 前のページを思い出していただきたい。 『助手席には私が運んできた服の入った大きな袋と、私のリュックが鎮座している。』 『ズボンの後ろポケットに入れていたスマホをその上に放り出して、運転席に座った。』  私は、菩薩さま顔負けの『無』の表情になった。 「あ、これだわ」  おそらく私が投げ出したスマホは買い物袋の中にするりと落ちて、そのまま母に渡して持っていかれてしまったのだ。  つまり、私のスマホは今実家にいる。  そんなバカな話があるかと思うが、こうであれば合点がいくのだ。  むしろ、そうでなかった場合の方がまずい。ではどこに行ったのかと言う話になってしまうからだ。  幸いにも、コンビニにはちっともスマートではないフォン、すなわち公衆電話があった。  母に電話をして聞いてみよう。  携帯の番号は……。 「いや、ダメだ。覚えてない」  今私がほしい情報こそ、行方不明なのである。  ぼんやり覚えているような気もするが、あまりにあやふやなのでやめておく。  仕方ない。実家の電話にかけてみよう。ダメ元ではあるが。  小銭入れを持って、私は車を出た。
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