紛失事件

6/6
前へ
/153ページ
次へ
 車に乗りこみ、手を振って正面に向き直り、アクセルを踏む。  バックミラーには、見送る母の姿があった。  突き当たりの角を曲がって、見えなくなる。  1回目に母に見送られたときは明るかったのに、今ではほとんど周りの車はライトを点けている。 「普通に帰ってりゃ、今ごろ家だったかな……」  まあ、考えても仕方あるまい。  それにしても、助手席に放り出したスマホが買い物袋にそのまま滑り込んで、行方不明になるとは。  何だかおかしくなってきて、とうとう私は車内で大笑いした。  やはり、毎日少しずつ、頭のネジをどこかで落としてきている気がする。 「うーむ」  私は1人、ニヤニヤ笑った。 「こりゃ、エッセイに書くしかないな」  ~*~*~*~  その後体重を計ったら、3kg増えていた。  一向に戻らない正月太りと合わせて、6kg。  何とか健康診断までに元に戻さねば、と思いながらナスとピーマンとシーチキンの味噌炒めをつまみに、ビールを飲む私であった。
/153ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加