さよならバイバイ、水分、ボタン、そしてドア

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 さて、これから仕事に行かなければならない。  本当はこのまま帰宅して、すぐにでも風呂に入りたい気分だが、仕方ない。  ぶっ飛んだボタンを縫い付け、トイレの後始末をし、そろそろと立ち上がってみる。  大丈夫だ、とりあえず歩けそう。  そのまま、ズボンも履こうとしたそのとき――。  するする。  正面の扉が勝手に開いた。  え。  いや待て待て待て。何で何で、何で開いた?  何かしらのセンサーが反応してしまったのだろうか。  正しく身に着けているのはパンツだけで、ズボンは未だひざ下で待機している状態だ。  まずいまずいまずい。  向こうでは普通に人が歩いている。  幸いなことは、トイレの順番待ちをしている人がいなかった点だろう。  私はあわてて、外から見て死角になる扉の裏側に移動した。  いやいや、え? ……え?  とりあえず、犯罪者になることは免れたが、今度は空きだと思って人が入って来られるとまずい。  ズボンを引っ張り上げ、ボタンを留める時間ももったいなく、ウエスト部分はシャツで隠して、もちろんチャックも開けっ放しゆえ、後ろを向いてかに歩きの要領で、ドア横のセンサーに移動する。  ゆっくり、扉は閉まった。 「……ふう」  全く、ただでさえ汗をかいたというのに、また冷や汗ものである。
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