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翌日。
N子がかけておいてくれた大音量の『バクチ・ダンサー』のおかげで寝坊することもなく、我々は予定通りに家を出発した。
駅に向かいながら、N子は銀座駅からのルートを確認している。
「まだ、早くない?」
「いや、不安で……」
「まあ、私は場所知らないからね」
そう言って調べる気もないのだからひどい友人だ。
「うん……歩いてすぐだね……」
N子は半ば独り言のようにつぶやく。
「銀座一丁目からすぐ」
「ん?」
私は思わずN子を見た。
「銀座って銀座一丁目なの?」
「うん、そうだね」
「何だ、銀座って言うから銀座駅なのかと思ったよ」
「え?」
N子、キョトンである。
「私の中では銀座って言ったら、銀座一丁目しかなかった」
一口に銀座と言っても、銀座駅(銀座線・日比谷線・丸ノ内線)もあれば、銀座一丁目駅(有楽町線)もあって、東銀座駅(日比谷線・都営浅草線)もある。
それから戸越銀座なんてのも……。
いや、これはちょっと話が違うか。
「そんなのわかんないよ~」
N子が苦笑した。
うん、この場合悪いのは、駅が多すぎる銀座の方だと思う。
その証拠に、銀座駅でなく銀座一丁目駅に行き先を変えたところで、時間には何ら支障はない。
何なら、当初の通り銀座駅から歩いて行ってもいいくらいなのだ。
「銀座駅から行く?」
とN子が尋ねた。
「いや、銀座一丁目でも時間は全然大丈夫だよ」
丸ノ内線が有楽町線に変わっただけのようなものである。
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