キルフェボンのケーキ

3/7

32人が本棚に入れています
本棚に追加
/153ページ
 翌日。  N子がかけておいてくれた大音量の『バクチ・ダンサー』のおかげで寝坊することもなく、我々は予定通りに家を出発した。  駅に向かいながら、N子は銀座駅からのルートを確認している。 「まだ、早くない?」 「いや、不安で……」 「まあ、私は場所知らないからね」  そう言って調べる気もないのだからひどい友人だ。 「うん……歩いてすぐだね……」  N子は半ば独り言のようにつぶやく。 「銀座一丁目からすぐ」 「ん?」  私は思わずN子を見た。 「銀座って銀座一丁目なの?」 「うん、そうだね」 「何だ、銀座って言うから銀座駅なのかと思ったよ」 「え?」  N子、キョトンである。 「私の中では銀座って言ったら、銀座一丁目しかなかった」  一口に銀座と言っても、銀座駅(銀座線・日比谷線・丸ノ内線)もあれば、銀座一丁目駅(有楽町線)もあって、東銀座駅(日比谷線・都営浅草線)もある。  それから戸越銀座なんてのも……。  いや、これはちょっと話が違うか。 「そんなのわかんないよ~」  N子が苦笑した。  うん、この場合悪いのは、駅が多すぎる銀座の方だと思う。  その証拠に、銀座駅でなく銀座一丁目駅に行き先を変えたところで、時間には何ら支障はない。  何なら、当初の通り銀座駅から歩いて行ってもいいくらいなのだ。 「銀座駅から行く?」 とN子が尋ねた。 「いや、銀座一丁目でも時間は全然大丈夫だよ」  丸ノ内線が有楽町線に変わっただけのようなものである。
/153ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加