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第十二章 それぞれの想い
リーディ・メイ・コウの3人はキャロルと一緒に船に乗り込んだ。目指すはスフィーニ島の海を隔てた遥か北東先の洞窟である。
航路としてスフィーニ島の海岸線に沿ってまず北へ進む。その途中に妖精の湖と言う妖精界への入口があるといわれる湖があるので、そこにキャロルを降ろして、あとの三人は再び船に乗り、洞窟のある島へ二日かけて向かったのである。
「ここで待っていればいいのかしら。」
キャロルは湖畔の傍に歩み出る。
「ああ…キャロルも気を付けて。それと、これ」
頷きながらリーディが渡したのはステラに渡したものと同じ、ナナイロマキガイだ。
「妖精の世界は時の流れが人間界と違うと聞く。もしかしたらキャロルが向こうに着いたら、俺たちよりもゆっくり時間が進むと思うので、こちらに戻るときは俺たちよりも遅く戻ると思われるから。」
「わかったわ。こちらに戻ってきたらこの貝でゴードン老師に連絡を取ればいいのね?」
「ああ。まぁ俺たちのほうが先に城にも戻ると思うけど、万が一の場合、城にいるじぃに連絡が取れたほうがいいと思うからさ。じぃも移動呪文は使えると思うし。」
「そうね。」
キャロルは受け取って大切そうに腰に携えている道具袋に仕舞った。
「キャロルー。妖精さんによろしくね。」
メイは努めて明るく手を振れば、
「気を付けて…。」
とコウは心配げに言う。
正直ステラがいないだけでも結構キツイ。その上守りの要のキャロルがいないのは、
なおさらだ。3人はそれが気がかりだった。
「妖精は結界を張っているから、魔物は現れないと思うのだが…。」
「ええ、この辺りは、邪気は感じないわ。」
そう頷くと、キャロルは仲間たちを促す。
「さぁ、あなたたちも早く行きなさいな。日が暮れちゃうわ?」
コウ
僕たちはキャロルと島の北の湖の近くで別れて、再び船に乗った。ちょうど潮の流れがありがたいことに東へ流れているし風向きも追い風だ。
「…3人だけの船ってちょっとさびしーよね。」
姉さんがぽつりと言う。姉さんは賑やかなのが好きだから無理もない。
「このあたりの海域は俺も不案内だ。」
海図を広げて、リーディも呟く。
「洞窟の話は聞いたことあるが…」
「実はこれから向かう洞窟は、僕の父が亡くなったと思われるところなんだ。」
「え…?」
そう。父は滑落死した。
唯一生き残った仲間の一人が命からがらエストリアに戻って伝えてくれたんだけど…
彼も体力の消耗が激しく、すぐに亡くなった。
「金の守り神っていうけど、なんか俺、嫌な予感がする。」
リーディが相変わらず海図を見続けて嘯いた。
「…。」
「なこと言ってても仕方ねーし。最善尽くすしかないな。エターナル・メタルを見つけることができたら、俺たちの武器も強力になるんだしさ。」
「そうだね…ただ、運よく見つけて持ち帰られたとしても、この加工法が不明なんだ。謎の多い金属だから。」
そうなのだ。ロディアー二の洞窟にある道具が関係してるとは思うけどね。
「…とりあえず、金の神に出会えることとその金属を見つけるのが先ってことか」
彼は僕が研いでおいたブロードソードを丹念にチェックして頷きながら答えた。
一国の王子の責任。
―俺は王位継承者ではないから気楽なもんだけど、やっぱり従者を巻き込みたくない―
そう言って彼は従者の方々の申し出を頑として拒んだ。実のところ僕は、今回のミッションにゾリアさんでもセシリオさんでも加わって欲しかったんだ。
リーディの気持ちもわかるし危険を承知で申し訳ないけど、猫の手も借りたいくらいだった。でも彼は頑なに反対した。
国に戻ってからの王子の彼は、僕から見ると少し自分に対して投げやりな感じがする。
それとも自責の念というのか…。おそらく4年前のこの城への襲撃に関係するのかなとも思うのだけど。リーディ、君は使命を果たすための大事な鍵のひとりなんだ。僕も姉さんもキャロルもそうだけど、ステラを支えるための大切な鍵なんだよ?
「あれ…何…あの島は?」
姉さんが東の方向を指さす。…もしかしてあの島は…!!
「リストンパークだ。」
リーディが再び海図に目を通して答える。
それは襲撃に遭った、ステラのルーツの国。彼女の母であるオーキッド王女が治めていたという国だ。
その国は17年前に魔族によって壊滅状態にまで追いやられて。噂だと魔物が蔓延り人の住める状態ではないという。僕らの両親もお互い難民キャンプに於いて子連れ同士で出会い、再婚してエストリアへ移住した。
「あたしたちもリストンパーク人なんだよね。」
「少なくとも僕の両親はそうらしいけど。」
「私の父さんはどこの国の人なのかな~。」
姉さんが気になっている本当の父親。どっかのお偉いさんっていうことしか、母さんは
話してくれなかったらしい。姉さんが実の父親について気になりだしたのはここ最近である…いや、ずっと前からそう思っていたけど一緒に旅に出て、急に口にするようになっただけなのかもしれないけどね。
僕のとっては義母さんなんだけど、姉さんそっくりな性格でとても陽気で実の子同様に
僕も可愛がってくれていたんだ。数年前病で亡くなったけど、もともと身体は丈夫じゃなかったんだ。
幸い姉さんは母さんの病弱なところは似なかったらしく、元気いっぱい。
「キャロルは両親の事全然知らないけれど、全く気にしないんだって。気が付いた時には一人で、難民キャンプで泣いていて、北の修道院のスターに引き取られて。彼女、浮世離れしてるから…あまり気にならないのかね?」
キャロルは不思議な人だ。一人で見知らぬ世界に行くなんてそうそう即決できるもんじゃないのに。
ステラは心配していたけど、僕だって心配だった。でもキャロルは自分が一人で行った方がいいような気がするとまで言っていたし、リーディも頷いていた。
神秘的な力が強い二人は何か感じるものでもあったのだろう。
「とりあえず風に乗ってどんどん進むから」
リーディは帆を広げる為に、船尾楼へマストのロープを引っ張りに行った。
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