第十二章 それぞれの想い 

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一方…ステラは…。 修行の毎日は、規則正しい。 朝日が昇る前にまず禊をする。旅しているときは運が良ければ水浴びできた生活だったので、却ってありがたい。季節は初夏だし心地良いくらいである。  シルサの村は鄙びた村で、禊はヴィーニーの家の裏手の泉で行う。澄んだ水で身体を清めると魔法力が漲ってきた。禊を終えるとステラ自身はゆっくり身体を清める。  時間がいつもなかったので、改めて自分の身体をまじまじと見て、少し赤くなった。 身長が伸びるのが止まってから身体が丸み帯びてきたのをどうしても恥ずかしく思う。 普段着も麻でできたストンとしたシルエットの身体のラインが出ないワンピースだ。  しかし最近胸が出てきてそれもちょっと苦しい。手足は背丈の分少し長く、綺麗に筋肉が付いている。  メイはしなやかな肢体を惜しげもなく露出しているが、健康的な色気でいやらしくなく、自分はそうではないので、どうしても身体のラインが出る服を着るのは抵抗があるのだ。  旅装束は鎧を装備する以外、チューブトップのタイトワンピースの上に銀の胸当てを装着して、肩まですっぽり覆うマントも装備する。下半身は怪我防止のための黒いプロテクトタイツも履いて。南の大陸に移ってからは暑いのでマントを装備しない時もあったが、胸当てのおかげであまり身体のラインは出てはいない。 「早く準備しないとね」 ステラは一人ごちて、艶めかしい胸のラインをあまり見ないように素早く水滴を拭き取り、ローブに袖を通す。ローブは基本装備できないが、物理的に着ることは可能だ。 剣や槍を扱うステラにはローブの裾が闘う時に邪魔になるのだ。同じく剣も装備できる リーディはレイピア装備のみの時ローブは装備可能。または杖の時である。 キャロルは基本ローブを装備している。 ステラにとっては、ローブ自体は身体の線が出ないので安心感があるのだ。  身支度を整え、裏口の樫の木の扉を開けて、ヴィーニーの代わりに朝食を作る。ヴィーニーはたいそう喜んでくれた。3日分の丸パンを捏ねながらステラは少し昔に戻った気がした。そう、山奥の小屋で母と二人暮らししていた時を。朝食を作っている最中にちょうど禊を終えたプリオールがやってきて手伝ってくれる。  朝食を終えると鍛錬が始まる。 最初はヴィーニーによる魔法の講義である。その日学んだことは回復系魔法と攻撃系魔法の根本的な違い。 攻撃系は妖精の力を借りて、自分の魔法力を放出、回復系は自分の癒しの力に魔法力の力を相乗し、引き出して放出する。  攻撃系と回復系はベクトルが違うこと。もっと簡単に言えばエネルギーの流し方が違う。 賢者と言われるものはその矛盾を乗り越えて両方の呪文を駆使するもの。  これは天性の才能としか言えない。その素養があるのは直系のフィレーンと亡き女王。 そしてゴードン老師だ。稀代の大魔導師と言われたヴィーニーでさえこう呟くのだ。 「ワシは攻撃系の専門だからな…。」 と。 羊皮紙に色々覚書をしながらステラは講義にもしっかり耳を傾ける。そして 「王子ももちろん素養があるが、王女ほどではない。」 そうヴィーニーが言ったのだ。 その時思い出した、リーディがラナンキュラスの花畑に連れて行ってくれた時に 「俺は中途半端だ」と、呟いていたことを。 ―このことを言っていたの?? ・‥自嘲気味な抑揚だった。 ステラはそこまで思い出して、項垂(うなだ)れたのであった。 午後は、いよいよ実践である。 まずはそれぞれの魔法の素養や適性を知る。プリオールは回復系が強い。神官だからであるが、閃光呪文も少し使える。ヴィーニー曰く、ステラの魔力もまだ眠っているものがあるということだ。彼女自身はまだ実感がないが意識的にトルデォンが使えたものの、潜在的な魔力を使ったことによる反動が大きいのだ。  それは魔族の力が半分備わっているので半分は人間でもあるステラは、魔力をオーバーロード しやすいからであるとヴィーニーは説明した。 魔力の顕在的な容量を増やすには、たとえ倒れても何度も呪文を使うしかないことと、 新しい呪文を覚えて耐性を付けることだという。 ステラはまず、ヴィーニーから初歩の火炎呪文の手解きを受ける。これはリーディが得意な呪文だ。 「王子は火の妖精に愛されている。従って風の妖精のご加護も受けられるはずなのだが… まだ力は目覚めていないようだな。ところでステラ殿は攻撃と回復のどちらが使いやすいか?」 「どちらかと言えば回復呪文のほうが使いやすいです。初歩のであれば、詠唱時間がさほどかからないです。」 「トルデォンができるのなら、火炎呪文もそのうちマスターできるじゃろう。今のうちに学んでおくがいい。魔力の容量をちぃとばかり増やせるようわしも手を貸してやろう。プリオール殿は閃光呪文をもう一段階上級のモノができるように…」 …このようにヴィーニーの実践指導は続く。それは意外にも地道な鍛錬だった。 日が暮れて一日が終わるころには、気力はそこを尽き、二人はくたくたになったのである。
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