第十二章 それぞれの想い 

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ゾリアは魔法研究所へ向かおうとしていた時に、ステラの姿を見つけて、少し疑問に思った。 …確か彼女はシルサの村で修行していると聞いた。なのにどうして城へ? しかも見るところ城内で、迷っているらしい。仕方ないか、この城は広いから2回目だとまだ迷うだろう。 彼は声をかける前にもう一度彼女を観察する。 背が高めですらりとした肢体にメリハリのある体つき。ほんの少しだけ緩く癖のある艶やかな銀の髪、凛とした美しさを感じさせる顔立ちに、大きなアメシストのような瞳。 彼としてはもうちょっと華奢な方が好みだけど、かっちり着込んでいる装備を脱がせたい衝動に駆られる程のいい女だ。一度一夜を共にしてみたい。でもあんな感じじゃ、男と寝たことはなさそうだな…。  親友の女じゃなかったら落とす気満々だけど、そこまで無粋な真似はしない。第一彼女は、隙が無いのだ。背には普通の女性じゃ扱えないような槍が光る。  それにしても、王子は彼女のどこに惚れたんだろうか。確かに人目を引く美女だけど男好きのするタイプでもないしな、とっつきにくそうだし。おまけに王子自身はどっちかって言ったら人を好きになりにくいタイプだ。(特に女は) だから、惚れたきっかけは定めの勇者だからでもないと思うし、妖しい美貌でもないはず。じゃぁ、フィーリングとか?王子のあの性格だと、彼女も真っ直ぐそうでしょっちゅう衝突しそうな感じだしなぁ。まあ即物的に女に惚れるのとは次元が違うんだろうけど…。 ……うーん。 ゾリアは色々憶測をしつつ、ぽんとステラの肩に手をやって話しかけると、彼女は少し驚きつつも振り向いて、軽く会釈した。 …話を聞くと予想通り迷っていたらしい。しかも行先は魔法研究所だという奇遇さ。 「俺もそこへ行くんだ、一緒に行こう」 その瞬間、彼女はほっとしたように堅い表情を緩ませて、破顔した。 「いいんですか?…助かります、ありがとうございます!」 その笑顔が、すごく屈託がなく爽やかで。 ああ、これはやられるなってゾリアは思った。 「ちょうど、私も向かうところだったからね。麗しのステラ殿が迷っていたら、 エスコートするのが礼儀ってもんさ。」 ステラの笑顔に少しドキっとしたが、流石色男。動揺も見せずウインクも決まっている。 王子が彼女に惹かれたのは、たぶん彼女のひたむきさとか、真っ直ぐさとかそういうのなのだろう。 性的なものとかそういうのも突き抜けた、混じりっ気の無い純粋さ。 ―王子、よかったな。 ゾリアは納得して、ステラを研究所まで連れて行くことになった。 二人は並んで歩きだす。 「シルサの村で修行をしていると聞いたのだが?」 「ええ。ヴィーニー魔導師の下で修行をしています。」 「で、何故魔法研究所へ?」 「老師の住まいにこれから学ぶ魔法の魔導書が無くて、お城の研究所ならあるかと言われて…。」 ゾリアは魔法の内容を聞くと頷いて答えた。 「言われた通り、確か書庫にあったはずだ。」 魔法研究所の扉を開けると、何人かの見習い魔導師がゾリアに挨拶をする。 「ゾリア様、こんにちは」 「ゾリア様、セシリオ様から託(ことづけ)が」 「お、なんだ?」 どうやらゾリアは急な用事ができたらしい。 「悪いステラ、書庫で一緒に探してあげたいのだが…。」 「あ、大丈夫です。ここまで来られれば…。」 ステラはまた軽く会釈して微笑んだ。その時、 「ゾリア、どうしたの?」 と彼の聞き慣れた声。 振り向くと、声の主は、数冊の魔導書を抱えたレオノラの姿であった…。
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