接待ってツラい。

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接待ってツラい。

 初めてやってきた動物園は、思ったより立派なと言うと失礼だが、しっかり動物園だった。      というより、動物園と水族館と子供用の小さな遊園地が合体したような感じで、陸地の生き物ゾーンと水辺や海の生き物ゾーンとに分かれていて、その真ん中に細長い敷地で子供たちの遊び場があるといった感じだろうか。    子供の遊び場にはポニーに乗れたり触れる犬や猫、ウサギがいたり、幼い子供が乗り回せるような動物の見た目にコロコロがついたようなものがあり、きゃっきゃと声を上げながら楽しそうに足こぎで友だちと転がしていたりしていた。      4人も子供いると、かなり手がかかるので、なかなか遠出は出来なかったが、こんなに充実してるなら連れてきてあげても良かったなー、と少し反省した。    ウチの子たちは、ダークの血が入ってるからなのか、すんごいワガママを言って困らせるという事が殆どなかった。    なかったのだが、心配させられなかった訳でもない。    ブレナンは誰かの足に掴まって移動するばかりだったから、ちゃんと足の筋肉つくんだろうなおい、とか思ってたし、カイルは剣の鍛練でしょっちゅうたんこぶを作ったり切り傷や擦り傷をこさえてた。    アナは虫や爬虫類にも興味を示す生き物好きで、レイモンド王子にヤモリをプレゼントにして半泣きにさせたり、国王陛下に「王さま、髪の毛寒そうだから」と毛糸の帽子をプレゼントしたのを見た時には、   (……やばい、シャインベック家潰れるかも)    と全身から冷や汗が流れたりもした。  幸いな事にアナの事を気に入ってる陛下は、   「おー、すまんのう。アナは優しいなあ」    などと頭を撫で、冬場にはちょいちょい被ってくれる展開になったのでお咎めなしで助かったけれど、ダークに言ったら絶句して棒立ちになり、半年間位は胸元に常に辞職願を入れていたほどなので、まー通常ではあり得ない不敬行為だったのだろう。    そういうあまり世間のしがらみにとらわれない娘を未だに孫の嫁にしようと思うのだから、王族ファミリーも結構フリーダムなところがある。    アナが本当に嫁になるかは正直レイモンド王子次第だと思うが。    クロエは読書とかお絵かきとか、家の中でやる作業が好きで、一番物静かで人見知りだったのに、真っ先に旦那候補を3歳でゲットした。  そして料理を学び、花嫁修業に余念がない。    ジークライン王子もすっかりクロエが大人になるのを待つ方向にシフトチェンジしているし、クロエも未だにジークが一番格好いいし優しいし一番好きだと言い、 「結婚したら母様と父様も沢山遊びに来てねアーデル国へ!」    とニコニコと未来図を語っているので、こちらはよほどの事がない限りは国際結婚コース確定だ。    実はこの子が一番大人でしっかりしているのではないかと思う。      心配の種は尽きなくても、皆愛しい我が子である。    まあ屋敷内で遊ぶことが多かったりしたので、子供たちはもしかしたらつまらない事もあったかも知れないなあ。私はヒッキーだからむしろ楽だったけど。    もうでも大分大きいから今更かしらねぇ。      ……あっ、ねえちょっと係の人、その深海魚みたいなゴツい魚、小魚とエビ食べてますって。  同じ水槽に入れたらアカンと思うんですけどー。  可愛いキャスト食われてますよー。  どんどん減ってますよー。ねえってばー。おーい。      考え事をしながら水槽に夢中になりすぎて、   「──リーシャ夫人は、魚が好きなのか?」    と話しかけられてハッと我にかえった。  ガレク国王が微笑みながら私を見ていて、それがまたイケメンなので目に眩しい。  とりあえず目を失礼でない程度に逸らした。   「……大変失礼致しました。初めて見る魚が多かったものでつい。案内人の立場で申し訳ございません」   「いや、とても可愛らしいところを見られてこちらも嬉しい限りだ」   「……とかいって父上も全然魚見てないじゃないですか。いくらすごい美人だからって、女性の方ばかり見ているのは失礼ですよ」   「はっはっはっ、そうだな。魚を見て後は動物の方も見ないといかんな」    ……すごい美人、ねえ。    国王の方がよっぽど美人さんだと思うのだけど。  ただの大和民族よー。土偶よー。    さりげなく周りを見ると、私と目が合った護衛の人が顔を赤らめて俯いた。  ほかの入場者も遠巻きにしながら、   「いやあすんげぇ美人だなあ……」   「女神だろあれは」   「本来なら妻を差し置いてと怒るところだけど、あの美貌じゃ文句のつけようがないわねぇ」    などとヒソヒソ囁いているのが聞こえ、ヒッキーとしての自分が帰りたいコールを脳内で巻き起こす。    ツラい。とっとと案内して帰ろう。  やはり大人数の人がいるところは居たたまれない。  可愛い綺麗と言われて嬉しいのはダークにだけだ。   「さあ、それではもう少し水槽の生き物を見てから、ひと休みして動物の方へ向かいましょうか。  喉も渇かれたのではございませんか?」   「そうだね。ついでに軽くつまめるものがあれば」   「ルーシー、確か入口入ってすぐの所にオープンタイプのレストランがあったわよね?この人数だから先にいって席を取っておいてくれるかしら?」   「かしこまりました」    ルーシーが頭を下げて離れた。  彼女がいないと不安になるけど、王族が店に入れなかったとかになったらシャインベック家の評判にも関わるし、ここは耐えるぞ私。    拳を握りしめて歩き出そうとして少しよろけた。   「っ、大丈夫か?」    ガレク国王が私を支えた。   「申し訳ございません、少々緊張で立ちくらみが。見苦しいところをお見せ致しました」    慌てて離れようとしたが、この国王体を鍛えてるせいかびくともしない。離して欲しいんだけど。   「また倒れたら困るからな。──そうだ、私の腕に掴まりなさい。これから倒れる事もなかろう」    腕を組むように私の腕を自分の左腕に掴まらせる。   「いえとんでもございません!ガレク国王陛下にそんな失礼な事は出来かねます」    グイグイと手を引っ張るけど離してくれない。   「アロンゾと呼んでくれ。ガレク国王陛下とか言われると国で仕事をしてる気分になる」    せっかく旅行気分なのだから、仕事を思い出させるなという事かな。気が利かなくて申し訳ない。   「……畏れ多い事ですが、それではこちらにいる間はアロンゾ様で宜しいでしょうか?」   「構わない。私もリーシャでいいかな?堅苦しいのは苦手なんだ」   「……よろしいように」    嫌ですとか言えないじゃないの。国王よこの人。  男性にリーシャって呼ばれるのは家族とダークだけなんだけど。……まあいいか今日だけだし。接待接待。    どう足掻いても離してくれないので諦めてガレク国王の腕に掴まるように手を回した。    これではまるでデートしてるカップルみたいであるが、まあ人妻だと分かってるんだしガレク国王の親切を仇で返す訳にも行かない。     (ダーク~、不可抗力だから許してねぇ~)      と心で謝った。      本当に王族って権力あるから押しが強くて困るわぁ。    私はあれは何という魚なのか?、あのカニは元からあんなに大きいのか?などと矢継ぎ早に聞いてくるガレク国王とカルロス王子に、だから初めて来たんだって言っただろうが聞いてなかったんかお前らは!こっちは釣った魚と食べられるもんしか知らねんだよっ、と思いつつも、分かる限りの説明をし、さっさと昼ご飯食べて動物を見て帰って解散だ、と心に誓った。        
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