リーシャは子供たちを愛でる。

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リーシャは子供たちを愛でる。

「……母様、本当にごめんなさい」   「ちゃんと反省してるならもういいわ。今度からは隠れてこんなことしたらダメよ?  悪い人たちに拐われたりしたらどうするのよ」    軽食を食べ終えて動物園エリアに歩き出した私たちだが、カイルがそそそ、と近寄ってきて私の服の袖を掴んで再度謝ってきた。    子供たちが来たお陰で、ガレク国王と腕を組まなくて済んだのは有り難かったので、結果的に今の私は緊張から解放されている。    表だって言えはしないが、むしろ来てくれてありがとう!と心の中では思ってたりする。    けれども、やはり子供たちの身の安全を考えると渋い顔をキープしておかねばなるまい。何しろフォアローゼスと呼ばれているほどの美貌の子供たち(他称)であり、アーデル国の王子(自薦)や、うちのガーランド国のレイモンド王子(自薦)が将来の嫁にしたがっている双子までいる。    先の事なんて分からないが、現時点ではかなりの重要人物なのである。     「カイル坊っちゃまは、普段は無茶をたしなめる側でしたのに、何故今回は率先しておられるのですか」    ルーシーの苦言に「父様がね……」と小声で呟き口元を押さえた。   「ん?父様がどうしたの?」    私は気になり続きを促した。   「父様がアレックにね、『リーシャは王族ホイホイだから、また王族に気に入られてしまうかも知れない。いや全世界の男が100人見たら100人が見惚れてひれ伏すほど美しい女神みたいな美貌だから、下手したら船大工の方までホイホイしてどこかに拐われるかも知れない。心配で仕事が手につかない』って話してるのを聞いて、僕も心配になっちゃって……。  ほら、母様は前にびいせんの女神って言われてたんでしょう?今でもとっても綺麗だし。  僕はシャインベック家の長男だから、母様を守らないといけないと思って」    テイクアウトしたアイスカフェオレをちるちるすすっていた私は噎せた。ルーシーに背中をさすってもらいながら反論した。   「っ、ごほっ、王族ホイホイはアナとクロエの方でしょうよ。私はもう結婚して10年以上経ってるのよ?  おばさんと呼ばれても怒れないお年頃なんだから。  何が女神よ王族ホイホイよ。ダークもいつも心配が過ぎるのよ。聞いてる方が恥ずかしいわよっ」   「旦那様の心配は最もでございます。既に王族ホイホイが発動しておられますし」   「……は?何を言ってるのルーシー?」    ルーシーを見ると、溜め息をつかれた。   「ガレク国王がリーシャ様と腕を組んで歩いてる時の顔は、それはもうデレデレと嬉しそうでございましたし」   「転んだら困るからって掴まらせてただけよ?」   「その上、リーシャ様が自分の顔を見ても嫌な顔1つしないのは、【顔はかなり残念な賢王】と言われているガレク国王には好印象かと」    ルーシーが小声で私に囁いたので、私も小声で返す。   「いやだってイケメンじゃないの!  声は渋いわ筋肉ムキムキだわ、創作意欲がこれでもかと刺激されるわよ。新作の主人公にしたい位よ。  周りは敵ばかりで誰も信用できなくなった孤高の王と、彼を密かに想い支えようとする臣下のラブストーリーってどうかしら?」   「その興味深い話はじっくり帰ってから伺います。  美的感覚は人それぞれですからともかくとして、リーシャ様は大概の女性と好みが違うのですから、相手に誤解されるような言動は慎んで頂きませんと」   「……慎んでるわよ?ていうか誤解されるような事をしてる覚えが1ミリもないわ」   「ちょっと腕を組まされた位で頬を染める方が何を仰いますか。誰が結婚して10年以上ですか。まるで乙女じゃございませんか」   「……だって、ダーク以外は父様や兄様、弟ですら腕を組むなんてことしたことがないのよ?  それも王族の一番偉い人よ?緊張するわよ」   「書いてる物語では腕を組む以下の行為などほぼ描写もしない方が、どのツラ下げて緊張するなどと仰せですか」   「ルーシー、それは違うわよ。恋愛経験値が圧倒的に低いからこそ妄想で全て補う訳よ。  創作の世界ではやりたい放題に出来る愛の伝道師でありたい。言霊が私を突き動かすだけなの」   「突き動かすのはキャラの腰だけの御方が綺麗にまとめようとされてますけれど、ただのムッツリスケベなヒッキーが煩悩を垂れ流すための理由づけでございますから。どれも名作揃いですけれど」   「誉めてるのかディスってるのかはっきりして欲しいわねルーシー」   「誉めているじゃございませんか。  リーシャ様と過ごしていると、才色兼備って言葉はもっと違う印象だったハズだったのに、と日々わたくしの辞書が書き換えられるほどの影響力でございます」   「ねえ今のは確実にディスってるわよね?」   「まあそれはともあれ、動物園の後は騎士団訪問ですわよリーシャ様。旦那様はリーシャ様に対してはメンタル弱いですから、ご心配をおかけするとまた家庭内ストーカーになりますので、気をつけて下さらないと」    ルーシーが注意する。   「……うーん、とはいってもよ。  私ダーク以外の男性って正直興味ないから、心配をする必要もないんだけれどねえ」    ダークもルーシーもそれは分かっているはずなのだが、見た目が天上の美貌(他称)だのガーランドの女神(他称)だの、私にとってはガセネタ以外の何物でもない形容詞をつけられているせいで、無駄に心配をされている気がする。   「ダークに会ったら抱きつけばいいのかしら?いやでも流石に仕事場でそれはないわよね」   「旦那様のご機嫌は右肩上がりかと思いますが」   「えー、恥ずかしいじゃない。だって他の隊員さんも沢山いるのよ」    想像しただけで顔が火照る。    よく分からないながらも話が聞こえたのか、隣を歩いていたカイルが笑顔になり、   「父様と母様が仲が良いのを周りにアピールするのは良いことだと思います!」    と私の手を握った。   「え?いや、でも人前でそんな……ねえルーシー?」   「──いえ、考えてみればリーシャ様が殆ど表舞台に出てこないので、つけいる隙を他の男性に与えてしまっている可能性もございます。  たまにはいちゃつく姿を周囲に見せつけることで、無駄な心配も変なちょっかいも減るのではないでしょうか?少なくとも増える事はございませんし」    ルーシーの言葉にカイルが頷いた。   「友達のお父さんも母様のこと、いつみても綺麗だなーって言ってるし、商店街の人も結構母様の話をしてる人が多いから、出来たら仲良しなのをどんどん見せてくれると僕も嬉しい」      ヒッキーでいると、周りの視線は浴びなくて済むが、子供たちにも変に心配かけている事もあるようだ。    商店街の人には旦那様好きアピールをしているつもりなのだが、まだまだ足りないのか。  もう放っておいてくれればいいのに。   「カイル、ごめんね。なるべく表に出るときはもっと母様頑張るわ」    カイルの頭を撫でる。  もう私の肩に迫る勢いですくすく成長している。  いつまで頭を撫でてあげられるかなあ。  今時の小学生世代は成長が早いわ。   「あ、カイル兄様だけずるい。クロエも撫でて~」    すぐ後ろをアナと手を繋いで歩いていたクロエがたったか前にやってきた。ブレナンもやってくる。   「アナも!」   「僕も」    グイグイと勢いよく押されてよろけた。  皆もう結構デカいんだから母様体力負けしそうだよ。  もう少し加減しなさい加減を。   「……ちょっとまだ反省が足りませんでしたか?  リーシャ様、やはり屋敷に帰ってからお子様たちにはくすぐりの刑を……」   「そうねえ……」    子供たちは、さあぁっと潮が引くように元の位置に戻った。危機回避能力がどんどん高まっている。   「帰る時までいい子でいたら無しにしてあげましょう。いい子だったらね」    聞こえるように言うと、みんなと歩き出した。    体は大きくなってきてもまだまだ子供である。    しかしウチの子供たちは可愛いわー。    もっと成長して、恋愛とか友達の付き合いが増えて親が鬱陶しくなる日が来るまでは、もう少し遊ばせてもらおうっと。      
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