ルーシーとデート。【3】

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ルーシーとデート。【3】

【グエン視点】   「──それでグエン様」   「え?な、何かなっ」    町をルーシーと歩きながら、僕は脳内でブレナンから教わったゾンビダンスを踊っていたり、副官に訓練でぼろ負けになった時の事を思い出したりして興奮を押さえるのに必死だった。      何しろ童貞だ。    何たって童貞なのだ。      大切な事だから2度言った。    女性とキスしたこともナニしたこともない童貞が好きな女性とデートをしているのだ。    それも、清純かつセクシーという両極端を併せ持つ奇跡のような可愛い格好で薄化粧までしてくれている。    それも自分の為にだ。  これが舞い上がらずにいられようか。    その上ルーシーのおっぱいの主張が激しい。    だが視線を向けたら最後、中身を想像して確実に勃つし、可愛い顔を見ようとしても、唇に塗ったピンクのルージュが艶やかでぷるんとしていてキスをしたらどんな感じかと思うと途端に股間が怪しくなる。    もう脳内がエロい妄想しか浮かばないのをせっせと別の事を考えて消火しているのだ。      暖かいのでラフに大きめの白シャツを羽織る形で黒いパンツを履いてきたが、シャツをズボンに入れてなくて本当に良かったと思う。    昼間っから町中で股間をもっこりさせている恋人などドン引きされてしまうに決まっている。     「いえ、どのような服をお探しかと」   「ああ、服ね!そうそう服だった……」    デートに誘った目的をすっかり忘れていた。   「そうだな……あのさ、ルーシーはどんな格好の男性が好きなの?」   「わたくしですか?……特にこれといって……チャラチャラと動きにくそうな飾りがついたような服は余り好きではございませんが」   「そうなんだ。僕もシンプルなのが好きなんだ。あー良かった」    ダメだ。これじゃ子供のお出掛けだ。  ちょっと強引に行かないと。    押してダメならもっと押せとシャインベック夫人も言っていたじゃないか。行けグエン!   「夏向けのシャツとか何枚か欲しいんだけど、お勧めの店はある?」   「男性向けですと、西通りの『ビリー』でしょうか。  柄なども多数あったように思われます」   「じゃ、そこ行こうか。──はい」    手を差し出すと、ルーシーは不思議そうな顔をして首を傾げた。   「あの……」   「恋人同士なんだから、手は繋がないとね」    とルーシーの手を少し無理やり気味に握る。   「~~!!」    周りには全く無表情に見えるだろうが、僕にはルーシーがかなり動揺しているのが分かった。    手を振りほどかれないんだから、嫌ではないんだと自分に言い聞かせた。回し蹴りも来ないし。    緊張して自分の手汗が出ている気がしてそっちの方が気になる。ルーシーの手は思ったより小さくて柔らかくてとても気持ちいい。   「ほら、早く連れてって。こっち?あっち?」   「……ええと、真っ直ぐ行った2本目の通りを左です」   「そ。じゃ行こうか」    当たり前のような感じで歩く。  嬉しくて口元が緩むのを必死でこらえる。    心臓のドキドキが伝わらないといいんだけど。        ◇  ◇  ◇       「……ちょっと、離して下さい!」   「何だよう、ちょっと一緒にお茶しようって言ってるだけじゃーん」      僕らが『ビリー』でシャツを3枚、ジーンズを1枚購入して出て来ると、道の端っこで2人組の若い男に絡まれ怯えてる20歳くらいの大人しそうな女性がいた。    最近は引き際を知らない野郎が多くて、トラブルも増えていると指揮官が話していたのを思い出した。    仕方ない、と仲裁のためそちらに向かおうとすると、ルーシーに止められた。   「騎士団に在籍する方が出るとこじれた時に厄介です。わたくしが参りますので」    そう言うと、すっ、と早足で女性の前に立つようにして男たちの前に出た。   「明らかに嫌がってるのが分かりませんか?いつまでもしつこいのは男性としての品格を落としますよ?」    ルーシーがいきなり現れて驚いた男たちも、女とみて侮った。   「ひゅぅっ、ちょっとお姉さん巨乳じゃ~ん!  オレ年上のお姉さんも大好き!その胸に顔を埋めて甘えた~い!一緒に遊ぼうよ~」    僕の大切なルーシーに何て下品な口を。僕ですら顔を埋めるどころか触った事すらないのに。  死ぬかお前ら。いや死ね。  思わず怒りで足が前に出そうになった時、   「──申し訳ありませんが、恋人がおりますのでいくらサルでもオスはお断りさせて頂きます」   「何だと!誰がサルだよテメェッ!!」   「まあ。嫌だ離せと断ってる女性の言葉が全く伝わってませんでしたので、わたくしてっきり言語を解さない人に似たサルかと」   「舐めた口聞いてんじゃねえぞババア!ああ?」   「年上の女をお姉さんかババアという語彙力5歳児レベルでしか表現できない男性を舐めるなという方が難しいかと思います」    カッとなった金髪の男がルーシーに手を上げようとしたが、その腕を掴まれて後ろ手に回された。  グイッと手を捻られて男が呻いた。   「か弱い女性に手を上げるなど紳士の風上にもおけませんわ。やはりサルですわね」   「てめぇ!離しやがれっ!」   「離せと言われてもいたいけな婦女子を襲いかねないサルをそう簡単には解放できませんわね、っと」    後ろからルーシーを羽交い締めにしようとしたもう1人の太った男の腹に思いっきり蹴りを突き入れた。   「ぐふぉっっ」    腹を押さえてうずくまる男に冷ややかな目を向けたルーシーが呆れたように告げた。   「運動不足でございますね。女性を落とすより先に贅肉を落とされる方が健康にも宜しいのでは?  ──グエン様、自警団の方を呼んできて頂けますか?」   「分かった!すぐ戻るから!」    僕は走って自警団の詰め所に向かいながら、ルーシーの惚れ惚れするような動きと、   「恋人がおりますので」    と言う台詞がエンドレスで脳内再生され、ルーシーが可愛いルーシーが格好いいルーシーが大好きだという気持ちが膨れ上がって幸せでおかしくなりそうだった。        
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