ルーシー、結婚する。【2】

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ルーシー、結婚する。【2】

【ルーシー視点】    結婚式の日は、梅雨に入りかけなのか曇天だったが、雨までは何とか降らずに済みそうだった。      それにしても、私が伯爵家の方と結婚する事になるとは夢にも思わなかった。縁とは不思議なものである。    まあ跡取りではないので伯爵夫人という訳ではないのだが、それでも相手は貴族のお家柄である。落ち着かない事は変わらない。        先日、グエン様と一緒に母に挨拶をするついでに、ルーベンブルグ家の方々にもご挨拶に行ったが、大旦那様も大奥様はとても驚いていた。   「ルーシーがロイズ家の下の息子とねぇ……分からんもんだなぁパトリシア?」   「そうですわねぇ。リーシャがダークを連れてきた時も驚いたけれど、今回も同じ位驚いたわねグラハム」    大旦那様はグエン様を見て、   「ルーシーは厨房で働いているメリーの娘でもあるが、私たちにとっても娘のようなものなんだグエン君。  ……だからね、不幸にしたら許さないよ?」    と笑顔で恐ろしい事をサラッと仰った。  大奥様も笑顔で頷く。   「……はい!誠心誠意ルーシーに尽くします!」    グエン様も顔を強張らせながらも力強く応えていたが、若干涙目だった。……少し可愛い。    母さんは、娘をよろしくお願いしますといいつつ私を掃除用具の置いてある小部屋に引っ張り込み、   「本当に大丈夫なのかいルーシー?貴族と結婚するなんて、何か騙されてるんじゃないかい?」    と小声で確認された。   「グエン様はいい方だし、別に騙されたとしても困らないじゃないの。リーシャ様のところでずっと働くのは変わらないし。  母さんだって私に誰でもいいから結婚して欲しいって言ってたじゃない。結婚する人が全て上手く行く保証もないんだから、気にしたところで意味ないわよ」   「あー、言われてみればそうだよね。  ま、離婚するにしても、せっかくのイケメンだからさ、孫の1人や2人は先に仕込んでもらいなさいよ?  私の老後の楽しみなんだから」    と人を孫製造機みたいに言って背中を叩いてカラカラと笑っていた。離婚前提で話を進める血縁者の方が扱いがどうかと思う。      マークス様もブライアン様も喜んで下さったが、お2人とも未だ独身である。    個人的には34になっても妹と比べてしまって、モテるのになかなか女性と上手く行かないマークス様や、25で女っけのない王立の研究所で働くブライアン様の方が心配である。     「ルーシーは大事にして貰ってたんだねえ」    帰りの馬車の中でグエン様が微笑んだ。   「ルーベンブルグ家の皆様は本当にいい方々ばかりですので、わたくしのような使用人にもとても優しくして頂いておりました」    私は頷いた。シャインベック家の方といい、ルーベンブルグ家の方といい、私は雇用主に大変恵まれている。   「ウチの両親も兄さんもルーシーの事を気に入ってたよ。お前には勿体ないってさ」   「有り難いお言葉でございます」   「ところでルーシー、もう少し2人の時にはくだけてくれると嬉しいんだけどな。もうすぐ夫婦になるんだし」    グエン様が私の手を握って蕩けるような眼差しを見せる。   「……前向きに検討しているのですが、なかなか直ぐという訳にも」    どうしても貴族であるグエン様には仕事柄なのか無意識にかしこまってしまう事が多い。   「うん。まあ徐々にでいいよ。どうせ先は長いしね」    照れ臭そうに笑うグエン様は10代の少年のようで、本当に何で私と結婚したいとまで思ったのか未だに不思議である。    ものすごいイケメン、という訳でもないのだが割と整っていると思うし、気がついたら懐に入り込んでくる人懐っこい感じは、かなりのモテ要素だ。    私個人としては嬉しいし、グエン様が考えているよりも実はずうっと好意を抱いているのだが、かなり年上の妻になるのだし、いつでも他に好きな女性が出来たら後腐れなく別れて差し上げたいので、自分から言うのは控えておこうと思う。その位しか出来る事がない。       ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇        神父の前で、私とグエン様が誓いの言葉を述べる。   「これで、御2人はめでたく夫婦として神に認められました。どうぞ末永くお幸せに」    ワアっ、と歓声が上がり、シャインベック家の庭に集まった人たちが拍手をしながら口々に祝いの言葉を投げ掛ける。   「ルージー、スゴくぎれいよぅ~おめでどう~」    リーシャ様がボロボロ涙を流しながら私に抱きついて来た。傾国の美貌が台無しである。    紙ナプキンを取り、   「ほらほらリーシャ様、鼻をかんで下さい」   「うえぇ~ん。……ずびびびーっ」   「全くもう。お子様たちに笑われますわよ」    と私はカイル様たちを見ると、グエン様のご両親や母、大旦那様たちを前に、    【ルーシー・ザ・ウェディング!】    とかいう長いリボンを使った華やかな新作ダンスを披露していて拍手喝采されていた。    何だか夜遅くまで部屋の明かりが付いていたがこれを練習していたのだろうか。    イベントになるとやたらとテンションが上がるのはリーシャ様の遺伝子だろう。いつもながら可愛いお子様たちである。    緊張続きで喉が渇いたので、テーブルにセッティングされていた炭酸水を飲み干し、お代わりをしたところで違和感に気づいた。    そういえばダンスの時に5人居たような……。    よくよく見たら、しれっとレイモンド王子がダンスに加わっていてちょっとむせた。    ……見なかった事にしよう。    私は2秒でそう判断し、グエン様とテーブルに並んだ料理に舌鼓を打ちながら、来ている人たちにお礼と挨拶を返していた。   「ルーシー、おめでとう。とてもお似合いね」   「この度はお忙しいなかありがとうございま……」    私は背後からの声に振り向きながら、食べていたチキンの唐揚げを喉に詰まらせた。   「……っ!ゴホゴホゴホッ!!」   「あらルーシー、だいじょうぶ?」   「ぐほっ、……なぜナスターシャ妃殿下がこちらに?」   「嫌だわ、リーシャとルーシーは私の友だちだと思っているのに。──レイモンドが行くって言うから便乗したとも言うのだけれどね。主人は仕事だから置いてきたわ。……実は料理も楽しみにしていたの。  リーシャは料理上手だものねえ。  ルーシー、結婚おめでとう!」   「……もったいないお言葉恐縮でございます」    ふふふっ、と微笑むナスターシャ妃殿下が怖い。  自分の結婚式に呼んでもないのに王族がいるとか、本当に心臓に悪い。    これもリーシャ様やお子様たちが普段から王族をコロコロ転がしているせいだが、王族でなくてもコロコロされるのだから仕方あるまい。   「ルーシー、とても綺麗だ。本当に息子と結婚してくれてありがとう!本当にありがとう!!」    お義父様もお義母様も、騎士団で剣術ばっかりやって女性の話も聞いたことがない息子が結婚してくれるだけで夢のようだと仰っておられた。    私のような平民にも見下すような態度はなく、とても親しみやすい方々だ。        披露パーティーもつつがなく終え、とうとう2人きりの夜が訪れようとしていた。          
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