授与式【5】

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授与式【5】

「リーシャ様、ですから一人で行動せずに旦那様かマークス様と一緒に居るようにして、知らない人に付いていったらいけないとあれほど………」 「あのね、付いていったんじゃなくて、ベンチに座ってたらたまたま隣にいただけでね」 「結果余計な会話をして、不敬罪に問われる寸前だったと言う訳だな」 「………そうなります、ね」  図書室でルーシーとダークが仁王立ちになる中、正座でひたすら頭を垂れる私。 「まぁ聞くと話の内容自体は普通なら別に大したことはないんですけども、王子に面と向かって言うのは流石にアレですわね。  ………旦那様、その第3王子は、何と言うかその、残念な顔立ちなのでしょうか?」 「うーん、まあ俺よりはマシだとは思うが、美形ではないな確かに。頭は良さそうだが」 「わたくし見慣れたせいか、旦那様も最近はそんなにアレな感じでもございませんが、そうですか。じゃあリーシャ様が気遣うのも当然ですわね」 「アレな感じ、と言うのがなにげに気になるが、まーリーシャの価値観から見るとイケメンなんだろ?」 「それはもう正統派のキラキラした王子様という印象で、はい」 「女神のような美人に自分が不細工だと思う顔のパーツを誉められて『大事なのは中身だ』と言われてみろ?ルーシーどう思う」 「即堕ちでございますね」 「だろう?あの眼は絶対惚れてる眼だった」 「そうするとやはり街の案内にかこつけたデートであると」 「それ以外の何がある」 「変な気を起こさないよう釣りの時のラフな格好に致しますか?」 「いや、それだと流石に失礼だろうから、なるべく素肌が出ないようなシンプルなドレスにしてもらってだな」  私を放置して勝手に話をし出した二人に、そろりと 「あのー、でも子供もいるし結婚してるって言ってますから考え過ぎじゃないですかね?  そんなロマンティックなシーン一切なかったですし」 「ロマンティックに思うかどうかは、与えた側ではなく受け取る側でございます」 「リーシャはそう言うところが鈍いんだ。もっと危機感を持て」  いや、でも『いくら(周りから)不細工と思われようが、一皮むきゃみんな同じ骨なんだから、頑張って中身を磨けよ』(意訳)とか言われて惚れる男がいるんだろうか。  あのジークライン様はダークのように心根が優しそうだから、街案内で済ませてくれようとしただけだと思うのよ私。 「でも、不敬罪で牢屋行きってところを回避できたんだから、明日の街案内はきちんと頑張るわ。  ルーシー、お薦めのスポットを教えてくれないかしら」  ルーシーは、 「そうですわね。サクッと終わらせて帰れるように効率のいい案内方法をお教えしますのでメモして頂けますか」 「………メモしたいんだけど、足が痺れて立ち上がれないから、机のメモ帳とペンを取ってもらえる?」 「あっ、リーシャすまん!  もう正座はいいからソファーに座れ」  ダークが私を抱き上げてそのままソファーに座………らずに、ソファーに座ったダークの膝の上に座らされた。  メモ帳とペンを受け取った私は、 「あの、ダーク。ソファーの方が座りやすいんだけど。恥ずかしいし」 「イヤだ。明日は俺のリーシャがジークライン王子とデートさせられるんだぞ?  いくら数時間とはいえ、男と二人きりなんて、浮気じゃないと分かっててもイヤでイヤで仕方ないんだ。なるべくリーシャを補充させてくれ」  背中にすりすりと頬を寄せてくるダークに、まあダークが他の女性と同じことしたら私もイヤだし、お互い様かと思い諦めた。  また変なこと言わないように気をつけないと。  私はメモ帳を開き、ルーシーの言葉を待つのだった。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 「リーシャ様、迎えが来ております」 「今行くわ」  翌日、まだ朝の9時半である。  ダークは「休みたい………」とブツブツ言いながら既に仕事に出掛けていった。 「ごめんなさいね、カイルとブレナンお願いね」 「お任せ下さいまし」  ルーシーに見送られて玄関を出ると、やたらと立派な馬車が待っていた。  贅沢だなあと思いながら馬車に乗ると、何故か既にジークライン王子が笑顔で座っていた。 「………あのー殿下、王宮でお待ちなのではなかったでしょうか?」 「いい天気ですし室内で待ってるの勿体なくて。今日は楽しみにしてました。  あとジークラインって呼んで下さいね」  ああ、王族だし、あまり街に気軽に出掛けるという経験もないのだろう。  ぜひとも楽しんで頂かなくては。  私はポケットのメモ帳をそっと押さえた。 「分かりました。それではジークライン様、先ずはお願いがございます」 ◇  ◇  ◇  余りにも目立つから、と王宮からの馬車ではなく、我が家の馬車で街へくり出してから既に5時間ほど。もう3時を少し過ぎた。  クレープ屋の前を通りかかると、ジークラインがいい匂いに惹かれたのか立ち止まった。 「これは何ですか?」 「クレープです。ジークライン様、食べたことございませんか?じゃ食べましょう!美味しいですよ。甘いのは平気ですか?」 「大好きです」 「じゃ、このチョコとアーモンドの奴に、生クリーム入ったのにします?」 「はい!」 「すみません、このチョコアーモンド&生クリームというのと、イチゴと生クリームのを1つずつお願いします」 「はーい、少々お待ちくださいね~」 「あっ、僕が払いますから!」 「私が誘ったんですからここは私が。  美味しいものを知らないままなのはもったいないですしね」  支払いを済ませた私がクレープを渡され、ジークラインに差し出すと、申し訳なさそうに受け取った。  テラステーブルに二人で腰を下ろす。  私がまず先に一口かじり、ジークラインに勧めた。 「うーん、美味しい!さあ温かいうちにどうぞ」 「はい。………んんっ、ほいひいれふっ!」  気に入ったのかすごい勢いで食べている。  自慢の広々とした公園で、パン屋で購入しておいたサンドイッチを食べ、美術館、最近完成したマンガカフェなどを案内し、小腹が空いたなと思っていたので、クレープは個人的にとても嬉しかった。  彼も気に入ってくれて良かった。  しかし、街を歩く人が、私達を見て驚いたような顔をするのはどうにも不快である。多分、不細工な兄ちゃんと美人な姉ちゃん(いや!私はそんなこと思ってないけど、周りの目がそう言ってるのよ)の組み合わせが物珍しいのだろう。  ちらりと顔を窺うが、苦笑する程度でそれほど気にはしてないようだ。  もしかするといつものこと、といった感じなのだろうか。  それはそれで悲しいものがあるのだけど。  クレープを食べ終えたジークラインが立ち上がり、二人分のアイスコーヒーを買ってきてくれた。 「ミルクとシロップも貰って来たので良ければどうぞ」 「ありがとうございます」  ブラックは苦いので少し苦手なので、ありがたく使わせて頂いた。 「今日は本当に楽しかったです」  ジークラインが嬉しそうに笑った。  美形の笑顔ってダークもだけど何でこんなにきらびやかなんですかね。  眩しいんだってば。もう陽は傾きつつあるというのに。 「私の拙いご案内でご満足頂けたのならありがたいですわ」  私は胸を撫で下ろす。これで投獄はなくなった………よね、多分。 「ええ、大満足です!………本当はリーシャさんが独身だったらもっと良かったんですけどね」  ………うん。聞かなかった事にしよう。  スルースキル発動。 「………ところで、交易の話でこちらにいらっしゃってると伺いましたが、いつ頃までご滞在ですの?」 「明日には戻る予定です。税率の割り振りが思ったより時間がかかってしまって、結構長居してしまいました」 「左様でしたか。御苦労様でございました」  そうか、もう帰るのね。  穏やかな性格で話してても頭の回転がよく、気持ちのいい会話が出来る人だった。  のんびりお帰りの際のお土産は何がいいかしらねぇ、などと考えていると、ジークラインが真面目な顔で不穏な台詞を投げつけてきた。 「………リーシャさん、今、本当に幸せですか?」
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