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ごー とぅー ざ しー!!
「かいすいよく?」
「そーよー。海は広くてねえ、美味しいお魚も美味しい貝もたぁっくさんいるのよ~行きたくなぁい?ママとパパとアレックとルーシーも一緒なの!
あと泳げるのよー浮き輪つけて。涼しくなって気持ちいいのよ~♪」
「「いく」」
活発なカイルはともかく、基本ゴロゴロしてるか引きずられて移動している面倒くさがりのブレナンも前向きな返事をするとは少し驚いた。流石に最近の暑さには少しうんざりしていたのだろう。涼しいに食いついた。
「ブレナン、海は砂がいっぱいで転がるとばっちくなるからね、ちゃんと自分の足で歩かないとダメなのよ?
あと砂のところは熱いからゴロゴロすると余計暑くなるからね」
一応私は念を押した。
「あい」
最近はブレナンも最小限の言葉ではあるが意思疏通がしやすくなった。
あれ、これ、それ、ママ、パパ、ごはんなど、長い言葉を発すると死ぬ呪いでもかかっているのかと思わせるが、一応喋る。
しかし、これは喋れないのではなく喋らないのだと私は知っている。
ジュリアにおやつの希望を聞かれた時には、
「ジュリのおやつはおいしいからなんでもいい」
とのたまい、ジュリアが超ご機嫌になったのは言うまでもないが、更に
「でもママのおやつはもっとすき」
とこそっと言って抱きついてきたからだ。
長い言葉話せるんじゃないの、と呆れつつも、ここぞというポイントで褒め殺しにかかる辺り、我が子ながら天性の人たらしではないかと思う。
私に似てしまった面倒くさがりの性格が災いして普段は無口気味だが、多分私よりも空気を読めるし頭もいい。これはダークの血だと思う。
カイルも、チャンバラや鬼ごっこなど動いてるのが大好きな元気な子で、じっと本を読むとかお絵かきするとかのインドアタイプではない。
私には似ていないように見えるが、豪快な性格に見えて怖い話をすると大泣きする性格的にビビりな所が私に似ている。
どちらにせよ愛しい我が子たちである。
幸いというのか、どちらも私に似た日本人系のあっさり顔になって、この世界ではものっそい美形扱いになるだろうとルーシーが言っていたが、個人的にも彼らは日本でもしょうゆ系のイケメンになりそうな気がしている。
ただ、別にほどほどでいいのだ。ダークのように顔のせいで無駄に不利益を被らなければ。
ルイルイのように顔だけに重きを置くようなバカ息子にだけはならないようしっかり教育せねば、と心に誓う私だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
2週間後、4日の有休が取れたダークと私、カイル、ブレナン、ルーシーにアレックという6人は、快晴のなか列車に乗り込んだ。2泊3日の予定である。
やはり列車の開通は町の人にも待ちに待った!という感じのようで、ホームは大賑わいだった。
往復切符を確保するのも結構大変だったのだ。
まだ料金的には高いので一般的な庶民にはなかなか手が出にくいが、商売の取引や、足が早い食料などの荷物の輸送手段にはかなり重宝だろう。
身内の不幸などでも、早ければ早いほどいい場合など利用用途は様々だが、早く日本にいた時のように、誰でも安心価格で普通に利用できる日が来ればいいと思う。
子供もいるので他の客の迷惑にならないよう大きめの個室を取ったが、なかなか広々として居心地がいい感じだった。座椅子部分もクッションがしっかりしており、腰に優しい。
長時間の旅ですからね。これは嬉しいですよ。
列車が走り出すと、カイルもブレナンも興奮して「わー」とか「おお」とか言いながら、座席から窓から動いていく景色をじいーっと眺めている。
「馬車のスピードとは比べ物になりませんねダーク様!」
アレックもはじめての列車に少し気持ちが高揚しているのが分かる。
ルーシーはいつも通り平常モードだが、子供たちと景色を見る眼差しは愉しそうだ。
私は、ダークを見る。
「天気が良くて良かったわね。お昼過ぎには着くから、ホテルにチェックインしたら、海岸に遊びに行きましょうか?子供たちも喜びそうだし」
「そうだな。まぁ泳ぐのは明日でもいいが………暑いし、水遊び程度に海に触れるのもいいんじゃないか」
「いいですねぇ!俺もまだ初夏だってのにこの暑さで身体がバテちゃってて、海に入りたいっす!」
「ぼくも」
「ぼくもうみにはいりたい!」
ブレナンもカイルも海を楽しみにしていたので、お預けは可哀想かと思った私は、
「よおし!じゃあみんなで海で泳ごうか~」
と笑った。
「「わぁっ!!」」
「………おいリーシャ、………やっぱりお前もおよ」
「泳ぐに決まってるでしょ。ダークも一緒よ!!………あ、先に水着と浮き輪も買わないとね」
自宅のある街の商店には海水浴アイテムが一切おいてなかったのでホテルに聞いてみたら、ホテルの中にショップがあるのでそちらでお求めされては?と言われたのだ。
まあ海に近くないと、ああいったものは通年で商売にならないのかも知れない。
「………そうか………」
やはり愛情豊かな旦那様は、こんな人妻子持ちな私でも人肌を晒すのは好ましくないとお考えのようで、難しい顔をしている。
ダークに小声で、
「あのね、真っ先に水着見せるのはダークだから。愛する旦那様に褒めて貰えるようなうんと可愛いのにするわよ、安心して」
と囁き、眉間のシワをきゅっきゅっと伸ばした。
「………おう」
ダークはようやくご機嫌が直り、私たちは快適な列車に揺られながら海水浴場への思いを馳せるのであった。
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